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「人は簡単には騙されない」を読んでみた。参考になったけど、ちょっと雑かも。

「人は簡単には騙されない」(ヒューゴ・メルシエ、青土社、2021年2月15日)を読んでみた。ある人が読んでいたので興味を持っで読むことにしたのだ。昨今、フェイクニュース、偽情報、誤情報など騒がしいが、実は人はそんなに騙されないということを多数の過去の調査研究結果から論証した本である。著者によるとSNSでフェイクニュースをばらまいてもそれで考えを変える人は多くはないちいう主張している。
過去の研究成果が紹介されていて、大変参考になった

●概要

主として進化論と認知科学の成果から、人間が騙されやすくなるはずはないとしている。騙されやすい人間は淘汰されるからだ。そのために人間に備わっているのが、「開かれた警戒メカニズム」である。開かれたというのは、有益な情報を進んで取り入れることで、警戒というのはその中の有害な情報は捨てるということだ。

著者は信念を反省的信念と、直感的信念のふたつに分けている。前者は個人的関与=行動などに影響を与えず、後者は与える。前者については行動に影響を与えないため「開かれた警戒メカニズム」は働かないという。SNSのフェイクニュースなどを拡散するほとんどの人にとって、それは個人的な関与があることではなく、コストや損害は発生しない。むしろ、同調することでより多くのフォロワーを得るなどメリットを得られることもある。

一方、個人の直感的信念にかかわることには「開かれた警戒メカニズム」が働くため、簡単にだまされることはないのだ。
そして、SNSで分断が広がっていることもないと調査研究の成果をあげて論証する。
たくさんの「騙されない」研究成果や事例が紹介されているので、非常に参考になる

ただし、騙されてしまうこともある。
たとえば、ヒトラーやデマゴーグはすでに世に広まってはいるものの政治家たちによっては十分に代表されていない意見を擁護することで支持を集めた。反ユダヤについてももともと反ユダヤ主義者が多かった地区でプロパガンダの効果があった。信じさせたというよりは、今までおおっぴらに言えなかったことを言えるようにした。できるようにしたことがその効果だ。

さまざまな研究によって否定されているにもかかわらず、なぜ人は騙されやすいとか、SNSで分断が広まったと信じられるようになったのか? 著者の回答は、ニュースやSNSによって印象を植え付けられているのだという。ニュースやSNSでは過度にフェイクニュースの脅威や分断を煽る。

多くの誤った情報を信じるのは自分よりくわしい人々=専門家などを信じないことから生じていると指摘し、フェイクニュースに対抗するには正しい情報を知らしめる以上に信頼の回復が重要と述べている。

●感想

著者はフェイクニュースだけでなく、広告や選挙キャンペーンも効果がないと主張している。
とても参考になったし、すでに持っているが表だって口に出していない主張を取り上げると支持されるというのは全くその通りだと思う。私が影響工作の効果と考えているのと一致する。

ただし、気になる点も多い。たとえば、カルト宗教にはまって病気にもかかわらず、治療を受けずに命を落としたり、集団自殺したりといったことの説明には足りない。また、広告や選挙キャンペーンになると、効果があるという研究は山ほどある。相対的に数少ない研究や事例を論拠にしているのが気になる。

つまりけっこう雑な感じがする。たとえば下記の文章だ。

ソーシャルメディアは分断を激化させるのではなく、世の中が分断しているという印象を植えつけるのである。より正確に言えば、ソーシャルメディアは自己の見解を強化するようユーザーを駆り立てるのではなく、世の中が分断しているという認識を強化することで互いに相手陣営を嫌悪するように仕向け、感情的な対立を煽っているのだ

ヒューゴ・メルシエ、青土社、2021年2月15日

これって結局、SNSが分断を煽っていることになるよね? それで多くの人が対立するなら原因はSNSでしょう。

気になる点はあるものの、いつもと違う角度から物事を見るのはとても勉強になるし、頭の体操にもなるのでおすすめなことは確かだ。いろんな逸話や事例があるのでおもしろい。注意が必要だけど。

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