情報流通への国家介入が話題になっているらしい

●なにが問題となったか


話題となっているのは総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」第14回ワーキンググループにおいて京都大学大学院法学研究科教授曽我部真裕のプレゼンテーション「「情報流通の健全性」と憲法」」という発表。その資料は「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会 ワーキンググループ(第14回)配付資料」のページ( https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_space/02ryutsu02_04000463.html )で入手できる。この資料ではデジタル立憲主義に基づいて「情報流通の健全性」のために国家が介入することは憲法上の責務と解釈できるという論を展開している。
この会議には法政大学の藤代裕之教授も参加しており、多くのメディア関係者が傍聴していたにもかかわらず危機感がなさすぎるのではないかという感想をXでつぶやいた。
https://twitter.com/fujisiro/status/1779667382602248488

もちろん、危機感をいだいたメディア関係者もおり、スローニュースは藤代教授の言葉を引用しながらその危惧を記事にした。

フェイク対策のはずが「国家による情報空間への介入」という危険な議論に…総務省の有識者会議を注視しよう
https://slownews.com/n/n1eabee5da172

●あくまで現時点での個人的感想

・因果関係と効果の検証がない仮定の上の議論

総務省のデジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会のページ( https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/digital_space/index.html )には過去の資料などがたくさんあって大変参考になる。以前、総務省は公開資料に関しては日本の省庁の中ではもっともこの分野に取り組んでいると書いたが、いまもってその通りだと思う。
これらの資料の中には暗黙的に因果関係や効果があることを前提としているものがある。
下記で書いたようにこの分野の研究の多くは偏っており、有効性が限定的であることがいくつかの機関から指摘されている。

最近の論文や資料から見えてくるデジタル影響工作対策の問題点 偏りがあるうえ有効の検証が不十分
https://note.com/ichi_twnovel/n/nc658fc12d401

まずすべきは偏りのない調査研究と検証じゃないかと思う。もちろん日本国内でも調査は行われているが、それらのほとんどには同様の問題がある。

・各省庁がバラバラに対策を講じているような気がする

情報流通の理念についても整理されており、それを実現するための情報流通の健全性ということだと思う。しかし、情報流通のエコシステムはより広いエコシステムに内包されている。したがって、単体で対策が可能とは思えない。
この問題は社会全体に関わるものである以上、デジタル影響工作対策をすすめる役割を担っているNISCなど安全保障関係の省庁と理念やアプローチを共有しておく必要がある。それぞれが勝手に違うことをやっていては場合によっては効果が相殺され、問題が広がる危険すらある。そもそもその効果も検証されていないものを実戦投入することになる。複数の組織が異なるアプローチで検証されていない手段を使う試みが成功する確率はきわめて低いとしか思えない。

メモ 昨今の情勢と、日本における認知戦、情報戦対策の現状
https://note.com/ichi_twnovel/n/n77d72cee5799

というようなことを思ったので、国家の介入に関しても各省庁がバラバラに国家介入を試みるようになったらディストピアだなと感じる。

メディア関係者があまり反応していない点は驚かなかった。メディア関係者、特に大手メディアは記者クラブや電波法(先進国の中では日本だけ電波オークションを取り入れていない)による既得権益を享受し、それでも最近は経営難と言って特別扱いを求めているので、国家介入によって自分たちが保護されることを期待していそうな気がする。少なくとも自分たちのような由緒正しいジャーナリズムは保護されるべきと考えていそうだ。
そもそも記者クラブという存在やいまだに電波オークションを取り入れていない電波法が情報流通の健全性を損なう憲法違反なのでは?

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