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ランド研究所の2つのレポートが示すロシアにおける情報対立の概念

【2022年8月22日追記】日本語で整理した表を追加しました。
アメリカのランド研究所は2022年8月18日にロシアの情報対立についてのレポートを公開した。「Rivalry in the Information Sphere」(https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA198-8.html)「Russian and Ukrainian Perspectives on the Concept of Information Confrontation」(https://www.rand.org/pubs/research_reports/RRA198-7.html)である。」後者の「Russian and Ukrainian Perspectives on the Concept of Information Confrontation」は、2002年から2020年にかけて刊行された情報対立に関するロシアとウクライナの論文の翻訳であり、いわば情報対立についてどのようにとらえているかの実例集となっている。こちらには、超能力やビル・ゲイツが300以上の衛星を保有し、そこから心理操作を行えるなどと紹介している論文もある。
もう一方の「Rivalry in the Information Sphere」は情報対立の概念について、文献でどのように扱われているかを元に体系的に整理し、ロシアとウクライナにおける差異を分析している。「Rivalry in the Information Sphere」は、ロシア軍事ドクトリン(RMD)、ロシアおよびウクライナの軍事科学文献、百科事典、辞書、ロシ ア連邦国防省のプレスリリース、ロシアの公式声明 、ロシアのメディアなど100以上の未開示の文書について調査した結果をまとめている。なので、紹介に当たっては「Rivalry in the Information Sphere」を中心にしている。

●レポートの内容

「情報戦争は決して残酷ではないが、人々は殺されるのではなくプログラムされる」と冒頭でロシアの軍事学者の言葉が紹介されている。この20年間でロシアでは情報対決(informatsionnoe protivoborstvo、IPb)についての議論を進めてきた。

・情報対立

情報圏、情報空間、情報環境について整理されていた。
【2022年8月22日追記】ざっくり用語の分類を整理してみたら下記の図になった。

本書にはそれぞれの用語の定義なども紹介されている。

情報対決は、下記の2つがある。
・情報技術 情報、電子、コン ピュータネットワークの破壊と敵の情報資源への不正アクセス。および自国の情報空間の保護。
・情報心理 敵側の国民と軍隊の兵士に対する情報心理的効果(技術的手段によってもたらされるものを含む)。

情報対立とは情報圏における国家間の対立と考えられている。情報対立は恒常的に行われるもので、情報戦は戦時や紛争時に行われるものという区別もある。

情報対立(IPb)の概念はロシアの軍事科学文献に数多く取り上げられているが、情報戦に関する統一的なドクトリンは存在せず、情報対立や関連概念の標準的な定義も今回対象した資料の中には存在しないことが明らかになった。情報戦と情報対決に関する重要な用語、概念、 定義を標準化しようとしてきたことはわかった。
ロシアの軍事科学者たちは、冷戦終結後の米軍と連合軍の作戦から教訓を引き出してきた。特に湾岸戦争とコソボ紛争は、情報手段を用いて軍事紛争の行方を左右することの有効性と、「非接触型戦争」と呼ばれるものの可能性を示すことによって情報対立に対するロシアの認識とアプローチ、さらには現代戦争をより広く形成する上で大きな役割を果たしてきたといえる。
ロシアの軍事科学文献や国際法に関する文献は、情報兵器を大量破壊兵器(WMD)を同一視しているものが多く、どちらのタイプの兵器も国際システムに大規模な変化をもたらす可能性があると見なしていることが明らかになった。情報対立は、戦時の通常軍事作戦を補完するために行われるものから、平時にも継続的に行われるものへと進化し、情報兵器や情報対決に関連する活動のより効果的な国際的ガバナンスが繰り返し求められている。
こうした変化はウクライナのロシアに対する情報戦の認識に関する分析にも表れている。2011年、ロシアは 「Conceptual Views on the Activities of the Armed Forces of the Russian Federation in the Information Space」を発表し、情報空間に関連する特定の軍事活動、概念、システムを定義することによって、ロシアが情報を軍事領域として扱い始めた。さらに、政治と社会のあらゆる側面で情報の役割が増大していることは、技術的に先進的な国ほど、情報対立の影響に脆弱であることを意味している。

・組織

組織ごとの役割なども整理されている。具体的な組織名やAPTまで入っている。


・非国家アクター

 国家組織だけでなく、非国家アクターも整理されていた。

・提言

最後に今後のための提言がある。
ロシアの軍事科学文献を研究することで、情報領域におけるロシアの活動、意図、認識について理解を深めることができる。
軍部はまた、情報対立の新たな手段として、特に東欧における歴史的事実の歪曲に関するロシアのレトリックをより注意深く監視することができる。ロシアの戦略の一環として情報戦が継続的に行われていることを考えれば、この分析はロシアの影響力行使と関連活動を監視する上で役立つだろう。
情報対立がハイブリッド戦争でどのように運用されているか、情報領域の効果的な国際ガバナンスの見通し、および情報対立がソフトパワーの道具としてどのように利用されうるかをよりよく理解するために、さらなる研究が必要である。
ウクライナの軍事科学文献も同様に、ウクライナの情報戦の概念に関する洞察を提供してくれる。ユーロマイダン以後のウクライナにおける変化を知るための窓となる。ロシアが最近ウクライナで行ったことを研究し、このようなキャンペーンに対するウクライナの考え方や対応の変遷を理解することは、最終的に政策立案者がウクライナやその他の地域における将来のロシアのIPb活動に対抗する緩和戦略を策定する上で役立つ。

けっこう盛りだくさんの内容なので、紹介しきれなかった。いずれ他の記事でまた紹介することもあると思う。

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