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DFRLabによるロシアのTelegram利用に関する包括的資料

DFRLabは2024年6月10日に「Another battlefield: Telegram as a digital front in Russia’s war against Ukraine」https://dfrlab.org/2024/06/10/another-battlefield-russian-telegram/ )を公開した。このレポートはTelegram上でロシアが行っている対ウクライナ活動を包括的に分析したものだ。


●概要

Telegramのロシアセグメントには7500万人以上の利用者がおり、70万以上のチャンネルを開いている。ロシアではニュースのためにWebを見る人数と、ニュースのためにTelegramを見る人数はほぼ同じだ。
ロシアの85%はニュースのためにTelegram使用しており、その約半数が政治に関するチャンネルを購読し、3人に1人がウクライナ戦争を扱うチャンネルを購読している。
Telegramのロシアでの普及を背景に、ロシア政府はウクライナ侵攻以後、Telegramでの情報発信と組織化を進めている。
このレポートではロシアがTelegramで開設しているチャンネルの中で特に影響力のある15件を解析した結果、下記が確認できた。

・全体的傾向

侵攻後、ロシアの発信する情報を世界に広げるうえでTelegramはもっとも貢献している。
侵攻開始後の数カ月でその影響力は確固たるものになり、ロシアはTelegramを利用するようになった。
これにより、Telegramはロシア人の考え方を知るための貴重なSNSとなった。

・トップチャンネル15

「Another battlefield: Telegram as a digital front in Russia’s war against Ukraine」( DFRLab、https://dfrlab.org/2024/06/10/another-battlefield-russian-telegram/ )

2022年2月の侵攻開始直後、活動がもっとも活発になった。次いで2023年6月ブリゴジンの乱の失敗の際にも急増した。チャンネルへの加入者数同様であり、侵攻直後に急増したが、その後戦争支持のチャンネルは政争疲れのため減少に転じた。一方、トップチャンネルの視聴者は侵攻直後に955億回に増加し(2021年は160億回)、以後も緩やかに増加し、2023年には1090億回に達した。

「Another battlefield: Telegram as a digital front in Russia’s war against Ukraine」( DFRLab、https://dfrlab.org/2024/06/10/another-battlefield-russian-telegram/ )

15のチャンネルは他のチャンネルのコンテンツを再投稿し、互いに強化し合っていた。
この増加はひとにぎりの国営メディアのチャンネルによるものも大きい。RIA Novostiは3倍の300億回に伸び、Russia 1は20倍の200億回に達した。

・軍事ブロガーチャンネル

38の主要な軍事ブロガーチャンネルの50万件以上の投稿を分析した結果、ウクライナ軍(AFU)の活動や戦場での損失などの最前線の最新情報、西側諸国のロシアの天然資源への依存の話、ウクライナの都市に対するロシアの攻撃、ウクライナ人を「ナチス」と蔑む議論などが繰り返し登場していた。

2022年9月のウクライナのハリコフでの反撃の成功、2023年5月の親ウクライナ軍によるロシアのベルゴロド地域への侵入の間、軍事ブロガーの投稿は、現場の最前線の最新情報と分析、得失のマッピング、ロシア国防省に対する批判の3つのカテゴリに分類されました。これらのカテゴリに関連する投稿は、他のトピックの投稿よりも多くの閲覧数と再投稿を獲得した。

・民間軍事会社(PMC)チャンネル

民間軍事会社(PMC)関連のチャネルでは、資金調達、採用、情報共有という3つの主要な関心分野が特定された。PMCはチャンネルでロシアの銀行や暗号通貨を通じた寄付金の収集、医療用品、銃器、その他の装備を購入していた。
戦闘員も募集しており、愛国心や感情的なメッセージを伝えることが多かった。
ワグナーは、地方の募集事務所専用のチャンネルを少なくとも30個維持したが、ブリゴジンの乱の際にロシア政府がワグナーのチャンネルを厳しく取り締まり、これらのチャンネルは消滅した。
ロシアのPMCチャンネルは、クレムリンの公式声明、戦争映像、従軍賞、米国の生物兵器に関する噂を含む誤・偽情報など、さまざまなトピックについて広範囲に情報共有を行っている。

・ハクティビストチャンネル

ハクティビストチャンネルの投稿活動のピークは4回あり、いずれも注目すべきハッキング事件に先立つものだった。事件の前には、特定の国への言及が急増することが多く、ウクライナ、米国、ポーランドへの言及が最も多かった

「Another battlefield: Telegram as a digital front in Russia’s war against Ukraine」( DFRLab、https://dfrlab.org/2024/06/10/another-battlefield-russian-telegram/ )

・ロシアメディアのチャンネル

ロシアにおけるテレグラムの人気の高まりは、ロシアのニュース記事でテレグラムのコンテンツを情報源として引用することが増えていることを反映している。
親ロシアメディアの記事でもTelegramの引用は481%、33,300件に跳ね上がった。
ロシア政府によって禁止されたFacebookとInstagramの投稿のニュース引用が急激に減少した一方、Xの引用は2022年に減少した後、2023年に増加した。
ロシアのSNS、VKontakte(VK)は、引用が2021年の1,192から2023年の1,848へとわずかに増加したが、その数はTelegramの引用には及ばず、VKが重要な情報源とは見なされていないことがわかる。

・ロシアの匿名チャンネルに対する取り締まり

ロシアのTelegramチャンネル上位100位のうち約半数が匿名である。一部のチャンネルは、匿名性をブランディング戦略として活用し、自らをインサイダー情報のソースとして紹介することで、読者にアピールしいる。
ロシアが標的としている匿名チャンネルは、しばしば「ネガティブな」情報から 利益を得ることで恐喝行為を行っていると非難されている。
チャンネルの匿名性を解除できるデータ収集方法が開発されたことで匿名チャンネルの取り締まりが強化された。

・ロシア政府を批判するチャンネル

Telegramには、ロシア政府の不正行の暴露、ロシアの政治および軍事エリートを批判する活動家たちのコミュニティがある。
ロシアで人気のある独立系ニュースメディアMeduzaは、ロシアのニュースおよびメディアチャンネルのトップ100の中で、登録者数で17位にランクされた。
ロシア国外のメディア、NewYork TimesやWashington Postなどは、Telegramのチャンネルを立ち上げてロシア国内のWebの閲覧禁止を回避している。
故プリゴジン氏とワグナーグループと提携したチャンネルは、2023年6月のワグナー反乱で頂点に達し た。ワーグナーのチャンネルは2日間で1億700万回以上の視聴と130万回のシェアを獲得し、プリゴジンの主要チャンネルは登録者数が87万2000人以上増加した。

●感想

概要は書いたが、とにかくロシアのTelegram利用に関する包括的な資料になっているので、関心のある方には一読をおすすめしたいし、さらに手元においておけばなにかあった時にすぐに参照できて便利である。

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