アメリカの古い地図が世界を歪ませる

現在、発売中のForeign Affairs3/4月号に「The End of the Middle East How an Old Map Distorts a New Reality」という記事が掲載された。ひとこで言ってしまうと、アメリカが「中東」と呼んでいる地域は名付けた頃とは大きく変わっており、もはや中東地域を理解し、対処するには不適当になっているということだ。実態に即していないのに、昔作った地図の区分で対応する態勢しかないから、当然効果的な対処ができないということになる。そして、衰えたとはいえアメリカのすることは世界的な影響を持っている。アメリカの古い地図が、世界を歪ませる結果につながっているのだ。

●アメリカの古い地図と新しい現実

アメリカの外交政策では中東を、アラブ連盟加盟国(地理的に外れたコモロ、モーリタニア、ソマリアを除く)、イラン、イスラエル、トルコという広義のアラブ世界としてきた。アメリカの大学やシンクタンク、そして国務省も同様である。しかし、現在は「中東」の領域を超えた活動が広がっている。そもそも、「中東」という概念が使われるようになったのは冷戦初期という昔の話だ。

たとえば2021年12月初旬、エチオピア政府はイラン、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)から無人偵察機などの軍事支援を受けて、反政府勢力との内戦で逆転した。今ではアフリカの国と「中東」の国が協同あるいは対立することは珍しくない

トルコはアフリカに40以上の領事館を設置し、ソマリアには軍事基地を置いている。イスラエルは、「アフリカ回帰」を宣言している。サウジアラビアは食糧安全保障のためにエチオピアとスーダンの農地を広範囲に購入し、UAEはアフリカの角全域に海軍基地を建設している。エジプトはナイル川の源流にダムを建設する計画をめぐってエチオピアと対立している。

アフリカだけに留まらず、オマーンはインド、イラン、パキスタンと強い経済関係を維持し、サウジアラビアをはじめとする湾岸諸国はアフガニスタンやパキスタンに深く関与してきた。トルコがアゼルバイジャンに軍事介入するなど、中央アジアへの関与を強めている。ほぼすべての湾岸諸国は、最近、中国や他のアジア諸国とのパートナーシップをアップグレードしている。つまり、「中東」だけに限定していては進行中の事態を把握できない。

記事では「中東」の歴史的変遷と、この枠に収まらない事態がどれほど起きているかを多数の事例をあげて紹介している。アメリカが古い地図にとらわれているうちに、他国はすでに新しい地図を手にしているという。たとえば中国の一帯一路は新しい地図だ。アメリカは新しい地図を持って、正しく世界を理解し、対処するようならならなければいけない。

●感想

まったくその通りで納得するしかないのだけど、「地図」はその国の戦略がそのまま反映されたものだと思うので、地図が古いということは戦略が現実に対応できていないことを意味していると思う。なので、かなり根本的な見直しを迫られているということなのだろう。

権威主義国が世界の主流となり、暴力の時代になってしまった今、アメリカはリーダーシップを発揮した方がいいのだろうけど、そのためのビジョンも能力も失っているようにしか見えない。今回のウクライナ危機がその状況を加速している懸念がある。
日本の地図もだいぶ古そうだし、戦前の地図が頭から離れなさそうな人もいそうだ。


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