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『いつもよりも具体的な本づくりの話を。』は旅のガイドブックのようだった

おもしろそうなので、『いつもよりも具体的な本づくりの話を。』(イースト・プレス、2022年9月4日)を読んでみた。
この本は著者である北尾修一が9名のゲストを招いて行った連続トークイベントと、本人の体験をもとに書かれた個人商店としての本づくりの話である。

●本書の内容

著者はもちろん全くの素人で出版社を立ち上げたわけではなく、『クイック・ジャパン』という雑誌の編集長を務め、文芸誌『hon-nin』を創刊したりしているベテランである。
トークイベントのゲスト9名も下記のように知る人ぞ知る名物編集者。
・坂上陽子(河出書房新社)
・金井弓子(ダイヤモンド社)
・松尾亜紀子(エトセトラブックス)
・大塚啓志郎(ライツ社)
・谷綾子(当時、文響社、現在ポプラ社)
・篠原一朗(水鈴社)
・篠田里香(生きのびるブックス)
・柿内芳文(STOKE)
・草下シンヤ(彩図社)

本の企画から出版までの実務を自身の体験やゲストの言葉を使って具体的に紹介している。ただし、ベストセラーではなく、自分の好きなものを自分流に作って生きてゆくための方法論なので、一山あてようという人向けのものではない。
また、聞きかじりのマーケティングがこびりついている人向けでもない。大衆中華料理屋のような個人出版社を営むための本だ。
そういう性格の本なので、随所に著者の人生観がにじんでいて、エッセイのようにも読める。
そうかと思うと、本の原価の数字や、本の構成の決め方など非常に具体的かつ実用的な箇所もある。
ただ、流通に関する話がほとんどないとか、本格的に始めるための充分な情報があるわけではなく、おおまかな流れと気になる具体的な数字などを紹介している感じだ。

本が好きな人なら、誰でも自分の好きな本を作ってみたいと思うことがあるだろう。中には、「あの人に本を書いてもらったらおもしろそうだなあ」という具体的な著者まで頭に浮かべたことがあるかもしれない。
そういう時に読むとすごく楽しい本である。もしかしたら、そのまま副業として出版社を始められるかもしれない。そう思わせてくれる等身大の出版社創業ガイドになっている。
ある意味、旅のガイドブックや紀行文のようでもある。実際に旅に出ないでも、読んでいるだけで楽しくなる。中にはほんとうに旅立つ人もいるかもしれないが、ほとんどは読んで満足する。そういう本だった。






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