見出し画像

犬の慰めのぺろぺろ

犬みたいだなあと思った。

退職にあたって、区役所に相談する事項があり問い合わせていた。
担当職員が説明してくれるが、雇用側の私にはお金の仕組みにピンとこない。言われるがまま、他の組合に問い合わせし直すことになった。保留音楽も聞き飽きた頃、担当職員が電話に出る。

不安ながらも内容を伝えてゆく。言い切らぬすんでのところで「それは〇〇です、〇〇ですから!」と強い口調で言葉を遮ってくる。
まるで、ボケた老人に言い聞かせるように。

察するに、問い合わせ先が間違っていたらしい。しかし、「はいもしもし」の一言目の次にくる受け答えが、ここまで強い口調になるものか。まるで私が悪者のようだろうと、正直なところ悔しくなった。

私も大人気ない。「今回電話するに至ったのは〜」と、捲し立てるように、早口で、隙を作らないように、長く経緯を話した。

良い年をした大人の低レベルの言い争いだ。

相手は、適切な間を取ってから「それは〇〇担当になっております。番号お伝えしますね」と冷静さを含んだ言葉に変わった。こちらの状況を知ったことで相手の心境も変わったのだろう。

「色々と失礼いたしました」と電話口から弱い声がこぼれる。
予想になかった言葉に、こちらも「いえ、こちらも何も知らず失礼いたしました」と焦って返す。

問い合わせが終了し、電話を切る。
たった5分の電話だったが、名も顔も知らぬ人間と熱く握手を交わす風景が目に浮かんだ。そして妙にスカッと晴れ渡った気分になったのが不思議で、しばらく考えていたがあれに似ている。

犬が牙を剥き出して威嚇しあってる中、片方の犬が舌をぺろっぺろっと動かして、もう片方の犬がそれに反応して仕方なく牙をしまう場面。

結局、人間ほとんど非言語コミュニケーションなのかもしれない。

2023/03/30

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?