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流行との距離感

離れて暮らす妹と、久しぶりに通話したときのこと。部屋に飾るドライフラワーの話になり、妹がふと思い出したかのように楽曲『ドライフラワー』のワンフレーズを口ずさんだ。

それを聴いたわたしは「あ、すごく流行ってた曲だ」と思うと同時に、自分が流行やトレンドからものすごく離れた場所にいることに気がついた。言い換えるなら、自分は“その世代じゃない”という感覚。

『ドライフラワー』は聴いたことあるし、とてもいい曲だと思う。だけど、自信を持ってそらで歌えるほどは聴き込んでない。うろ覚えだからカラオケでは歌えないだろうし、ちゃんと歌詞とメロディーを覚えたとしても、カラオケで歌うには気恥ずかしさがある。自分より若い世代の曲を無理に歌ってる感が出てしまうんじゃないかとビビってしまう。

そんなわたしも、昔は流行りの曲がもっと身近にあった。

たとえば2007年、わたしが中学2年生だった頃の年間オリコンチャートを見てみる。

1位 秋川雅史「千の風になって」
2位 宇多田ヒカル「Flavor Of Life」
3位 コブクロ「蕾(つぼみ)」
4位 嵐「Love so sweet」
5位 KAT-TUN「Keep the faith」
6位 KAT-TUN「喜びの歌」
7位 桑田佳祐「明日晴れるかな」
8位 Mr.Children「旅立ちの唄」
9位 関ジャニ∞「関風ファイティング」
10位 NEWS「weeeek」

※ wikipedia「2007年の音楽」の頁を参照

「Flavor Of Life」と「Love so sweet」、「明日晴れるかな」は思春期にどっぷりハマったドラマに使われていた曲だから、めちゃくちゃ聴いていたのを覚えている。「千の風になって」と「蕾」もテレビで流れているのをよく聴いたし、カラオケで誰かが入れたときには一緒に口ずさんだ。

この頃のわたしは若かった。世間知らずで怖いもの知らずで、でも流行の渦のなかにいた。そこで時代を代表するような曲を聴き、堂々と歌うことができた。

その後、時間は流れて28歳。2021年のビルボードジャパン年間チャートは次の通り。

Billboard JAPAN HOT 100 of the Year 2021

#1 ドライフラワー(優里)
#2 Dynamite (BTS)
#3 夜に駆ける(YOASOBI)
#4 炎(LiSA)
#5 怪物(YOASOBI)
#6 Butter(BTS)
#7うっせぇわ(Ado)
#8 群青(YOASOBI)
#9 虹(菅田将暉)
#10 廻廻奇譚(Eve)

※ Billboard JAPAN公式サイトを参照

どれも何度かは聴いたことがある。それなのに、カラオケじゃ堂々と歌えないであろう曲が多い。それはうまく歌えないってだけじゃなくて、“世代じゃない”の感覚でミーハーになりきれないのも大きい。

時代を代表するようなヒットソングがどこか他人事に感じられるようになったのは、いつからだろう。そんな風に“世代じゃない”なんて感覚を持ち始めたときから、わたしはもう流行の渦中にはいない。そして歳をとって若者との年齢差が開いていくのに比例して、わたしと流行との距離はさらに離れていくのを想像する。

流行に興味を持てなくたってミーハーじゃなくたって、ほかに自分の好きなものがあれば問題なく生きていけるだろう。でも、自分は人に取材する、企画を考えるといった仕事をしている以上、流行を全く知らないのでは困る。かといって、無理に若者ぶって流行を知ったぶりする大人にはなりたくない……。だから理想は、つかず離れずのちょうどいい距離感だ。

流行りのなにかと出会ったときは、「流行ってるヤツだ」とか「若者の間で話題のヤツね」なんて先入観で流行を切り離さずに、自分の目と耳と手足でたしかめるようにして歳を重ねたいなと思う。そうやってちゃんと自分ごとにできたら、“自分は世代じゃない”なんて消極的な言い訳せずに、ちゃんと流行を楽しめる気がする。

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