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自動車シュレッダーダスト(ASR)由来プラスチックのマテリアル(材料)リサイクルに取り組むリサイクラーと現状の課題

自動車シュレッダーダスト(ASR)をご存知でしょうか?
自動車のリサイクルや廃車処理プロセスにて生成される廃棄物の混合物です。ASRは、自動車を廃車処理施設で解体する際に、シュレッダーと呼ばれる機械を使用して車体を細かく破砕することで生成されます。
ASRは、通常、自動車から取り外された金属部品(鉄、アルミニウム等)、プラスチック部品、ゴム、ガラス、ファブリック、及びその他の物質から構成され、これら部品や材料は、自動車の解体やリサイクルの過程で分離・回収されますが、ASRにはこれらの異なる材料が混在しています。
ASRの処理とリサイクルは、自動車産業の成長と共に重要性を増してきましたが、自動車寿命が短くなり、自動車台数増加につれて、自動車廃棄物の処理が環境上の課題となってくると同時に、ASRの処理技術も進化してきました。
では、いくつかの側面からASRについてまとめてみました。


◆課題

  • 汚染:ASRには、金属、ゴム、プラスチック等の様々な材料が混合して含まれていることがよくあります。これらの材料を汚染することなく効果的に分離及び分別することは、リサイクル業者にとって大きな課題となります。

  • 選別技術:自動車に使用される各プラスチックは、性能要件に対応するための独自の特定の組成を持っているため、多くのプラスチックは充填剤含有量、添加剤、着色剤等の構成が異なるため、主な障害は、様々な種類のポリマーを選別する複雑さです。

  • 技術的な制限:ASR由来プラスチックの選別技術は、他の種類のプラスチックに使用されているものと比べて高度又は効率的ではない可能性があります。これにより、材料の純度レベルが低下し、リサイクル可能性が低下する可能性があります。

  • 装置:シュレッダー操作で使用される現在の技術を、事前の解体と金属の内部回収に重点を置いて簡単に説明します。これにより、シュレッダーは通常、ELV本来のものよりも他の金属含有物品をより多く処理するため、ASRはかなり変動するフローとして発生します。

  • 収集と輸送:プラスチックのリサイクルプロセスは集中ネットワークを通じて実行されるため、収集、分別、分別プロセスに加え、多額の資本と大規模な運営を必要とするプラスチック廃棄物の輸送が課題となるため、リサイクル率が低くなります。

  • 市場の需要と経済性:ASRから得られる再生プラスチックの需要は、市場の動向、規制、競合する材料の入手可能性等の要因によって変動する可能性があります。バージンプラスチックやリサイクル材料の価格変動等の経済的要因も、リサイクル作業の実行可能性に影響を与える可能性があります。

  • 規制遵守:リサイクル業者は、ASRを含む自動車廃棄物のリサイクルと処分を管理する様々な規制を遵守する必要があります。これらの規制要件を満たすと、リサイクルプロセスに追加のコストと複雑さが追加される可能性があります。

◆環境への影響

  • 有害物質:ASRには、鉛、カドミウム、PCB等の有害物質が含まれることがよくあります。これらの物質は、適切に管理されないと、人間の健康と環境の両方にリスクを引き起こす可能性があります。

  • 埋め立て問題:ASRの大部分は、その不均一かつ複雑なマトリックスのため、現在埋め立てられています。これは貴重な埋立地スペースを消費するだけでなく、埋立地からの浸出水やガス排出の潜在的なリスクも引き起こします。

  • エネルギー消費と排出:エネルギー回収システムを含むASRの処理プロセスは、エネルギー消費と排出に寄与する可能性があります。例えば、ASRからのごみ由来燃料(RDF)の生成とその後のガス化は、CO2排出につながる可能性があります。

  • 資源回収の可能性:良い点として、ASRには回収して再利用できる可能性のある材料が含まれているため、天然資源が保護され、未使用材料の抽出と処理に伴う環境への影響が軽減されます。

ASRの正確な組成と、その処理と廃棄に使用される方法を最適化することで、環境への影響を最小限に抑えることができますので、その点に注意することが重要です。

◆ASRリサイクル性の改善

  • 高度な選別技術:より高度な選別技術を開発及び導入すると、ASRで見つかった様々な種類のプラスチックをより適切に分別するのに役立ちます。近赤外分光法やその他の高度なセンサーベースの選別システム等の技術があります。

  • 設備の改善:シュレッダー操作で、より効率的かつ効果的な設備への投資は、ASRからの貴重な材料の回収を向上させるのに役立ちます。

  • 集中化されたネットワーク:プラスチック廃棄物の収集、分別、分別のために集中化されたネットワークを確立することは、全体的なリサイクル率の向上に役立ちます。

  • 法律と規制:ASRのリサイクルを促進する法律と規制の導入と施行も重要な役割を果たします。例えば、日本では2005年に使用済自動車(ELV)リサイクル法が制定され、使用済自動車の不法投棄や不適正保管が大幅に減少しました。

  • 研究開発:ASRから材料をリサイクル及び回収するための新しい方法の継続的な研究開発も不可欠です。

  • 国民の意識と教育:リサイクルの重要性と不適切に廃棄されたASRの潜在的な影響についての国民の意識と教育を高めることも改善に貢献します。

これらは一般的な提案ですが、各自動車メーカーや車種などによって具体的な技術や手法や戦略が変わってくると思われます。

◆高度な選別技術

ASRのリサイクル率を高めるには、分別・選別技術を高度化していくことが重要です。ここでは、現在取り組んでいる最新テクノロジーをいくつか紹介します。

  • センサーベースの選別:センサーベースの選別技術は、ASRで様々な種類の材料を選別するために使用されます。これらの技術は、独自の物理的及び化学的特性に基づいて、様々な金属、合金、ポリマーを識別し、分離することができます。

  • 磁気分離:磁気分離は、ASRで鉄金属を非鉄金属から分離するために使用されます。これは、スチール及び鉄材料を残りの残留物から分離するのに特に役立ちます。

  • 渦電流分離器:渦電流分離器は、ASRで非鉄金属を非金属材料から分離するために使用されます。これらは、非鉄金属を反発する磁場を生成し、非鉄金属を残りの材料の流れから排除することによって機能します。

  • 誘導選別システム:誘導選別システムは、選択的な純粋な金属画分と残留画分を生成するために使用されます。これらは非常に感度が高く適応性があるため、下流の処理段階の前の優れた最初の段階となります。

  • X線選別機:高性能のデュアルエネルギーX線選別機は、ゾルバ(高品位の非鉄金属留分)の処理の鍵となります。高精度かつ超高速のデータ処理を使用して、あらゆる粒子の原子密度を測定します。これにより、プラスチック製品や木材の汚染物質が除去され、クリーンで高価値のアルミニウムが生産されます。

これらの技術は継続的に開発及び改良されており、より効率的かつ効果的なASRリサイクルの新たな機会を提供しています。

◆リサイクル業者のASR戦略

技術やソリューションは日々進化していますが、ASRを実行する企業や業者が増加してくる必要があります。そこで、リサイクル業者がASRに注力することを奨励するには、次のようないくつかの戦略が必要なのではないか?と考えています。

  • 政府の補助金又は減税:政府は、ASRをリサイクルする企業に対して補助金や減税等の金銭的インセンティブを提供できます。

  • 技術開発:ASRリサイクルをより費用効果的かつ効率的に行うための技術開発への投資は、リサイクル業者の奨励につながります。

  • 市場の需要:啓発キャンペーンや教育を通じてリサイクルされたASR材料に対する市場の需要を生み出すことは、リサイクル業者の動機付けにつながります。

  • 規制上のインセンティブ:炭素税、未使用材料に対する税、リサイクルされていない包装に対する罰金等の規制上のインセンティブも、リサイクル業者のインセンティブとなる可能性があります。

  • 研究開発:ASRから材料をリサイクル及び回収するための新しい方法の継続的な研究開発も不可欠です。

  • 国民の意識と教育:リサイクルの重要性と不適切に廃棄されたASRの潜在的な影響についての国民の意識と教育を高めることも改善に貢献します。

これらの戦略は、ASRのリサイクルにとってより好ましい環境を作り出すのに役立ち、それによってより多くのリサイクル業者がこの分野に注力することを奨励します。

◆ASRにおける経済的課題

上記取り組みで、技術や業者にドライブがかかったとしても、経済的課題は極めて多面的で、この市場が飛躍的に伸びていかない現状があります。

  • リサイクルプロセスのコスト:ASRのリサイクルプロセスは、材料の複雑さと高度な分別技術の必要性により、多くの場合費用がかかります。

  • 低い材料リサイクル率:潜在的な利点にもかかわらず、材料リサイクル率は依然として非常に低く、約17%であり、自動車業界における循環経済の達成には程遠いです。この低い料金により、ASRリサイクルへの投資が経済的に困難になる可能性があります。

  • 回収された材料の市場価値:ASRから回収された材料の市場価値は低い可能性があり、ASRリサイクルの経済的実行可能性に影響を与える可能性があります。

  • 規制遵守コスト:ASRの廃棄とリサイクルに関する政府規制の遵守にも、多大なコストがかかる場合があります。

  • 新技術への投資:ASRリサイクルのための新技術の開発と導入には、多額の投資が必要です。

  • リサイクル料金:使用済自動車(ELV)リサイクル法に基づき、自動車製造業者と輸入業者は、自動車メーカーが支払うリサイクル料金を利用して、フロン類の破壊、ガス発生器のリサイクル、ASRのリサイクルとエネルギー回収に関する義務を負っています。車の所有者が新しい車を購入するとき。この料金は実際のリサイクル費用をカバーしない場合があります。

これらの課題は、ASRリサイクルの経済的実行可能性を向上させるための支援政策、技術の進歩、市場メカニズムの必要性を浮き彫りにしています。
ASRは今後、EV車への対応も必要となってくるため、技術・リサイクル率・投資といったキーポイントを複合的に評価して進めていくことの必要性をお伝えしたいと思います。


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