見出し画像

誕生

緊張

私は昔から「緊張しい」である。
とにかく心臓がばくばくする、どきどき、どころではない、ばくばくだ。

ただ、自分より緊張している人がいると、そうでもなくなるのだ。

例えば、とても感動する映画を見ていて涙が出そうになったとき
隣を見ると号泣していると涙がひっこむ、といったところか。

手術前日に入院したのだが、このコロナ禍で
面会は一日30分、同居で18歳以上の大人一人だけだった。

10日間にわたる入院のセットを旦那さまが運んでくれた。
すでに緊張している。


座ったら?

手術当日、手術1時間前に旦那さまはやってきた。
すでに点滴がついており、血圧計も腕に巻き付いている。
「麻酔のための麻酔」をしたところだ。
おしりにプスっとされるのだが、コロナワクチンよりましだった。

旦那さまが手術室の隣にある、リカバリールームに入ってくる。
術後も一度、この部屋に戻ってくる。

「ど、どう?」

明らかに緊張して、そわそわしている。
そこへ看護師さんが椅子を差し出してくれた。

「旦那さんほら、座って」
「あ、はい」

一度座るが、太ももをしきりにさすっている、そしてすぐ立ち上がる。

「ほら、座りなって」
「うんーでもーはあー…」

いや、ため息をつきたいのはこちらである。

こうして同じ部屋に私より緊張している人がいることで、私はそこまで緊張しなかったというわけ。


「髪の毛あったね」

とり上げられた我が子は、呼吸が整ったあと旦那さまの元へ行った。
縫合まで無事終わった私の元へ、我が子を抱いた看護師さんが来たのだが

「旦那さん、髪の毛のこと心配してた(笑)」

と笑った。
旦那さまの幼少期までの写真は、本当に、本当に心配になるくらい髪の毛が薄かった。
いや、薄かったというより、無かった。

だからか、そこを心配していたんだろう。
部屋に戻った私は

「髪の毛の心配?」と笑いかけると
「いや、心配でさ、髪の毛、ちいさんに似ててよかった」と笑った。

いや、まず「かわいいね」とかあるだろ!


覚えていない

その日はどんな日だっただろうか…
生まれたその日の空の写真を撮っておくべきだった。
携帯を見返してみたが無いのである、
入院したその日の、夜ご飯の写真しか。

入院中、天気があまり良くなかったことは覚えている。
窓にバチバチち雨が当たっている音がよく聞こえた。

傷口の痛みで動けず、思うように母乳が出ず、
たぶんそのせいで空腹で我が子は泣き続け、
あんなにいつも一緒にいた大好きな旦那さまに1日30分しか会えないことが
辛く、悲しい9日間だった。

母親になるとは、もっと幸せに包まれる感覚なのだと思っていた。
そう簡単にはいかないのだな、と思い知らされた日だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?