『道草』夏目漱石

みんな金が欲しいのだ。いや、金しか欲しくないのだ――。
晩年に自身の苦悩を著した、唯一の自伝的小説。
漱石が「人生に悩んで悩んでこれ以上ないほど悩みぬき」生まれた傑作。

海外留学から帰って大学の教師になった健三は、長い時間をかけて完成する目的で一大著作に取りかかっている。その彼の前に、十五、六年前に縁が切れたはずの養父島田が現われ、金をせびる。養父ばかりか、姉や兄、事業に失敗した妻お住の父までが、健三にまつわりつき、金銭問題で悩ませる。その上、夫婦はお互いを理解できずに暮している毎日。
大正(1915)年、朝日新聞連載。「こころ」に続く作品。近代知識人の苦悩を描く漱石の自伝的小説。用語、時代背景などについての詳細な注解、解説を付す。

何とも陰鬱な作品で読んでいて気が滅入ってしょうがない。何処にも救いのない物語、真綿で口と鼻を塞がれたような息苦しさ。

複雑な家庭環境で育ち、自身が気づいた家族も冷え切った空気に満ちて、“御前は必竟何をしに世の中に生れて来たのだ”という声に答えるすべもない主人公の、孤独や閉塞。

家族といえども、いや、家族だからこそ拭えないしがらみ、纏わりつく不快。一方で妻の心に傷をつけるしかない自身の身勝手さに気付かない傲岸さ。

何もかもが主人公の神経をを逆撫でする。断ち切れないその負の連鎖の中で、一人ぼっち放り出されて、そんなふうに生きていくしかないなんて、切なすぎる。

何とも哀しい物語でした。

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