偏愛 -関所-

 エイジの高校の修学旅行先は韓国の釜山、慶州であった。

 往路は下関から関釜フェリーで釜山へ、復路は釜山の空港から福岡空港まで空路という行程であった。
エイジにとってはこれが初めての海外旅行となる。
写真部員としてもしっかり撮ってこなければ、と外付けの露出計をセットしたSR-3と、レンズは55/1.8、135/4.0そしてMC W.ROKKOR 28mm F2.8の3本。要するにほぼ自分のシステム全体の出動である。

 今から35年ほど前の話である。
今とは世情がまるで違う。特に韓国は朝鮮戦争休戦中である。(今でも終戦には至っていないが。)
事前に先生からカメラを持って行くにあたって幾つか注意を受けた。
その最たる例が「港と空港でカメラを出さないこと。」であった。
釜山の港も空港も軍民共用なので、まだまだ戦時下のそんなところで外国人がカメラなど持ってウロウロしようものなら、あらぬ疑いをかけられて身柄を拘束されるぞ。と言うことであった。
脅しの部分も幾らかはあったのかもしれないが、素直に従うことにした。
事実、当日、釜山港には米海軍のカール・ビンソンが入港していた。

 自分でも気をつけていても、思いもかけぬところで問題というのは生じるものである。
釜山港で入国の為の審査を受けている時のことである。
他の同級生たちは次々と審査が済んで入国ロビーの方へ進んでいくのに、エイジは手荷物検査で引っ掛かる。
問題になったのはカメラ、特に望遠レンズであった。
望遠レンズで何を撮るのか、と言うことであろう、望遠レンズを手に持ち興味深げに眺めながら「zoom lens?」などと聞いてくる。
こちらは「No. telescope lens.」と応える。
英単語の応酬である。
他の生徒に比べ必要以上に時間を要したが、所詮は日本の高校生の団体の一人である。無事に入国となるが、修学旅行御一行様が無事入国となるにはもう少し時間が掛かった。

その高校は、ちょっとやんちゃな生徒が少なからず居る学校であった。
警察のマル暴の刑事が本職の方々と見分けがつかないのと同じで、生徒指導の教員の中には街中で出会うと道を譲ってしまうような強面の先生が2、3人いた。
この先生たちがなかなか入国ロビーに顔を見せないのである。
きっとヤ○ザと間違われているに違いない。

みんなそう思っていた。



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