偏愛 -黒-

 元は現像と言う実験が目的だったエイジも、純粋に写真を撮ることが目的になってきていた。
そんな息子の姿を見て、写真用具一式がもう自分のところに戻ってこないと感じたヒサジは自分用に新しくカメラを買うことにした。
息子にカメラを取られた…、と言うのは言い訳で、もうフルマニュアルのカメラを使う気力が無くなった、自動露出の楽なカメラを使いたくなったと言うのが正しいところ。

 そんなヒサジが買ったカメラは、minolta X-7。
レンズもエイジが占有していたので、MD ROKKOR 50/1.7付きであった。
露出制御は絞り優先AEのみの初心者向け廉価機で、宮崎美子嬢がピカピカに光っていたあのカメラである。
あのCMのカメラはシルバーボディだが、ヒサジの選んだそれはブラックボディであった。

X-7のシルバーボディとブラックボディは単に色違いなだけではない。
ブラックボディにはシルバーボディには無いグリップが付いていた。
それ以上に違っていたのがファインダーで、「アキュートマット」と呼ばれる非常に明るいピントスクリーンを搭載していて、ファインダーに関しては実質的なフラッグシップ機であるXDに引けを取らない素晴らしいものであった。

 このカメラも結局エイジが専ら使うことになるが、エイジはその素晴らしいファインダーに感動した。それまで使っていた古いカメラの薄暗いそれとは比べ物にならないクリアな見栄であったし、友人たちの他メーカーのファインダーも比べ物にならなかった。

 エイジはヒサジから、「レンズはROKKORかNIKKOR」と教えられていたが、新たに自分自身で悟った。

「アキュートマットに勝るファインダー無し。」と。


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