偏愛 -BEER-

 エイジのいた写真部では年に何度か写真展を開催して作品発表をすると同時に、一般の人の感想や意見を聞いたり、他大学写真部との交流を図ったりしていた。
この写真展は部主催なので、会場費などは部の予算で支出していた。
そして、先輩の中にはこういった定例の写真展とは別に、数人の有志で写真展を開催する人もいた。
これらの写真展に掛かる費用は基本的にすべて自腹である。

 エイジも2年生の時に、同級生4人で「2年生展」と称して市内の小さな貸し画廊で写真展を開催した。
1人あたり4作品程度の小さな展示であったが、多くの来場者に恵まれ盛況のうちに終了した。
気を良くしたエイジたちは、「じゃあ、来年は3年生展で。」と早くも来年の開催を約束し合ったのであった。

 一年後、「さあ、今年も4人で写真展やろうぜ。」と言う段になってシンジとキンゾウの2人が脱落した。
結局、エイジはヤスユキと2人で昨年と同じ場所で「二人展」を開催した。

エイジは大学に入るまで写真誌やHow to本が師匠であった。
写真の撮り方がそうなら、観方も同様である。
この大学の写真部に入って初めて写真に対峙する思いが変わったが、それまでの経験がそうさせるのか絵作りをする傾向があった。
つまり、光景を切り取るのである。
自身も「写真を撮るとは、光景の中から一部をファインダーで切り取ること。」と考えていたので、撮られた写真とその元の光景は無関係を装っていた。
だからなのか、エイジの写真の印象は「冷たい」もので、よくみんなから「エイジの写真は冷たい感じがする。」と言われた。

対して、ヤスユキの撮る写真は優しい感じのする写真が多かった。
自身の心情を写真で表現できていたのかもしれない。
そんな対象的な2人の作品が10点ずつほど並んだ写真展であった。

 ある日、OBのタカアキ先輩が会場を訪れ、2人の作品を観た後に感想を漏らした。
「ビールに例えると…、エイジの写真にはキレがあるけどコクが無い。ヤスユキの写真にはコクがあるけどキレが無い。そんな感じだな。」

言い得て妙、であった。


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