偏愛 -小窓の正体-

 一気にエイジの中でモヤモヤ感が増していった階段下の謎の小窓。

 施錠されて中に入ることが出来ないとなれば調査するしかない。
「調査」と言っても大したものではない。要は「学校のことは先生に聞いてみる。」が一番手っ取り早く、確実なのである。
エイジはクラス担任であり、科学部の顧問でもあるシュウイチ先生を職員室に訪ね、謎の小窓の正体を問う。

シュウイチ先生は、20代後半の独身男性。ちょっと歳の離れた兄貴といった感じで、担任で顧問だから普段から一番身近に感じる先生であった。
一度など、土曜日半ドンで帰宅しようと親友のリョウと二人、校門を出たところでシュウイチ先生に呼び止められ、「明日、おまえら暇じゃろ。ちょっと家に遊びに来んか。」と言われる。
ご指摘の通り特に予定の無い我々二人は言われたとおり、シュウイチ先生が独身貴族を謳歌している古い木造アパートへ行く。
待ちかねたように出てきたシュウイチ先生は、「おう、来たか。実は2つ隣の角部屋が空いたけぇ、そっちに引っ越すんよ。あっちのほうが陽当たりもええけぇの。小物は自分で運んだんじゃが、大きい家具運ぶの手伝うてくれや。」
自分の引っ越しを手伝わすのに我がクラスの生徒を呼ぶか?
(今の世ならちょっとした問題にもなりかねん。)
そんなこんななので、こっちも他の先生方に対する態度と違い少々馴れ馴れしくなる。

 「上段校舎の階段下に小窓があるけど、あの中はなんねぇ。」

シュウイチ先生は即座に応える。
「あぁ、あそこか。あそこはの、暗室よ。」

暗室…。
そんなものがこの学校にあったのか。
謎があっさり解けると、こんどは俄然そこで「写真の現像」という実験がやりたくなってくる。
写真そのものに興味がある訳ではない。科学実験としての現像に理科大好き少年であったエイジの琴線が触れたのである。

 「そんなものがあるなら、写真の現像がやってみたい。」
とシュウイチ先生に伝えると、

 「ええで。科学部も大した活動しよる訳でもないし、部活いうことで使うてもええで。でも、長いこと使われてないはずじゃけ、自分で使えるようにせえよ。鍵はホレ、ここにある。」
と自分の机の引き出しを開けて一本の鍵を渡してくれる。

自分の引っ越しの時はオレをアパートまで呼んでおいて、暗室の掃除はオレ一人かい。と思いながらも「写真の現像」という行為に、エイジは夢を膨らませていったのである。


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