見出し画像

土トラックから丹後路へ。

2021年6月13日に行われた全日本大学駅伝の選考会で3位に輝き、3年ぶりに全日本大学駅伝への切符をつかみ取った大阪経済大学。出雲駅伝では関西の強豪校、関西学院大学に約40秒の差をつけ勝利。また、関西インカレにおいては男子2部総合準優勝を収め1部昇格を成し遂げた。
関西の長距離界にその名を轟かす彼らは「環境を言い訳にせず努力する」ことが強みだと語る。


1.敗北が齎した決意

——選考会の時の仕上がりはどうでしたか?

昨年、選考会で負けた時から練習の内容を変えました。それで徐々にチーム全員が力をつけてきて、昨年とは全く違う状況です。現在エースがいないため、選手一人一人がエースだという気持ちでないと勝てないので、その意志が強かったです。仕上がりは昨年と全然違いましたね。

6月13日にたけびしスタジアム京都で行われた全日本大学駅伝の関西地区選考会。駅伝常連の伝統を有する京都産業大学に、合計タイム6秒の接戦を勝ち抜き、伊勢への切符の最後の一枚を獲得した。関西を超え全国へ「京都産業大学を破った大阪経済大学」とその名を轟かせた。今年の大阪経済大学の勢いは昨年の同選考会で味わった屈辱が背中を押していた。

昨年の選考会では記録審査で10秒勝っていたびわこ学院大学に7分近くの大差をつけられて敗北した。また昨年までは富田遼太郎という絶対的エースがいた。中心となってチームを牽引する存在が欠けた大阪経済大学は、再び関西の長距離強豪校へと返り咲くため、練習内容だけでなく練習に対する心構えから変えることとなる。後に控えた冬季が彼らの決意を表すものとなる。

2.環境を言い訳にしない

——選考会で負けてからの練習や大阪経済大学の強みはなんでしょうか?

関学さんや立命館さんなどは高校から実績を残している能力の高い選手が大学でさらに競技力を伸ばしてます。選手の質が高いので強度の高い練習をこなせたり、追い込めば走れてしまいますよね。大阪経済大学もスポーツ推薦はあるんですが、高校の時にある程度の実績を持つ選手は強豪校へ流れてしまって、速い選手が集まらないんです。なのでまずは地力をつけることが必要と判断し、下地を積み上げていくような練習内容にシフトしました。

練習を積んでいく中で、練習環境を言い訳にしないことは大事だと思いましたね。大経には一周280mの土のトラックしかないので。笑
タータントラックを使うときは大阪の緑地公園まで移動して利用しています。ちゃんとしたトラックのある大学をうらやましいと思いますが、与えられた環境でしっかり練習していくことが大事だと思いました。

緊急事態宣言が出ているときは緑地公園のトラックも使えないので、6月の選考会前も土トラックでずっと練習していて、そこで20kmとか走ってました。100周とかですね。笑 もう一つサッカー用の人工芝のグラウンドがあるので、一周300mとって練習してました。良い環境とは言えないですが、環境を言い訳にはできないです。ほかの大学よりも頑張っているというメンタルで練習していました。そこは自信をもってレースに臨めた要因でもありますね。

「環境を言い訳にしない」

大阪経済大学が練習で普段利用しているグラウンドはおよそ280mの土トラックだそうだ。標準的な400mのトラックでも全天候塗装の(所謂タータン)トラックでもない。特に長い距離が中心となる駅伝へ向けた練習ではこのトラックを100周以上走るという。同じ景色の中で20kmを超える長距離の練習では、互いに切磋琢磨できるチームが何よりも大切になってくる。また、身体はもちろん精神的な面での鍛錬でもある。環境を言い訳にしていたらいつまで経っても強くなれない、その決意が大阪経済大学を伊勢路へ導いたのである。

そもそも大阪経済大学は比較的長距離種目で実績を持つ選手が集まるものの、実際に近畿圏やインターハイなどで活躍するレベルの選手は箱根駅伝を目指し関東の大学へ進学するか、関西に残留したとしても立命館大学や関西学院大学などいわゆる強豪校に全て吸収されてしまう。大阪経済大学の駅伝メンバーは強豪校ほど地力を持っているわけではないが、関西圏で、全国で活躍するために、大学での練習を切磋琢磨し皆揃って大学で力をつけた。

画像1

3.エース不在

——大学に入学してみんな同じスタートラインから成長する。チームとして全体的に強いチームが出来上がる。すごくいいチームですよね。チームの結束がやはり鍵ですか?

結束はだいぶできてきていると思います。「結束」は抽象的な表現だと思いますが、僕の中では、自然と同じ目標にむかっていっている状態かなと思います。
昨年の選考会で負けてエースの富田さんがいなくなってから、「自分たちでやるしかない、一人一人強くなるしかない」という思いから結束力ができたのだと思います。

昨年の選考会で後ろ髪を引かれる苦さを味わい、さらにそれまでエースとしてチームを牽引した富田が卒業した。彼らはエースが不在であることをしっかりと自覚した上で、その中でも駅伝で活躍するためにはメンバーそれぞれが成長しなければならないことを痛感した。
これが結果として、結束の根源となったのである。

——練習の中での中心選手は誰ですか?

とびぬけたエースはいませんが、二年生が強いのでそこを中心にして頑張っています。誰かがペースを上げたら周りも上げるというように、全員が頑張っている形なので、誰が中心かを答えるのは難しいですね。みんな「俺が俺が」精神が強くて「俺がやってやるぞ!」みたいな感じです。必然的に練習でもみんなが争うようになっています。
二年生の坂本君がエネルギッシュかな。あとは、一年生に寺谷兄弟がいてその二人もバチバチで練習しているので期待しています。それから今回の選考会でトップのタイムだった中角ですね。かなり力があります。

結束が生まれたチームは強い。
ある程度中心となる選手は形成されつつも、練習では全員がお互いを意識し、誰かがリードするのではなく全員でお互いをリードし合うような関係が構築されていた。結果として、強豪校に比べ地力で劣るメンバー全員が強豪校と太刀打ちレベルできるまで成長しているのである。それも誰1人大きくおいていかれるのではなく、チーム全体として成長しているのである。
大阪経済大学のチーム力は関西でもトップを争う。

4.地力を向上させるために


——地力を向上させるために特に意識している練習はありますか?

基礎体力作りを意識しています。筋力トレーニングですね。練習前後に必ず入れてあって、めちゃくちゃきついです。笑
一番しんどいのはサーキット形式の筋トレで60分くらいかけてじっくりやります。それをやった後に集団ジョグなどをするんですが、ジョグの時には既に体が動きません。そこでいかに体を動かせるかで、試合できつい場面での粘り方が変わってきます。「今日も良い練習ができたな」と感じられる練習を毎日継続してやるのがポイントですね。きついですが良い練習してるなと感じます。
特にきついのはVO2MAX(最大酸素摂取量)を高めるようなサーキットトレーニングです。きついです。しかしこれを乗り越えた先に希望とか目標が待っていると思えるので楽しいです。楽しいと思えるのが強みですね。

強豪校に地力ですでに劣っている大阪経済大学はありきたりな練習を積むだけでは"強豪校"と呼ばれる大学には到底追いつかない。練習内容にも工夫し、辛い練習でも楽しく有意義な練習と感じることができるのは、大阪経済大学の強みではないだろうか。何も走るだけが陸上競技や駅伝の練習ではない。バラエティに富んだ練習をすることで多方面からの刺激を受け、さらに必要な心肺能力や筋力も整ってくる。練習内容も淡白でないため、練習をしていて飽きが生じない。
チームとしての結束、練習に楽しみややりがいを感じることができる、すでに大阪経済大学には"強豪校"となりうる素質が備わっていたのである。十分に京都産業大学を上回る可能性を秘めており、全日本大学駅伝選考会の結果は偶然ではなく必然だったのだ。

画像2

5.襲いかかるコロナの脅威

——コロナは多くの爪痕を残しました。チームも影響を受けましたか?

チームとしての練習が全くできませんでした。昨年4月の緊急事態宣言により全体での練習ができず、家の近い人同士で集まって練習していました。夏に全体の練習ができるようになって集まった時には、みんなかなりぽっちゃりしていました。そのままの流れで選考会に突入してしまったのでそこは痛かったです。長距離はやはり集まれる練習の方が良いですよね。

昨年はまだ引っ張ってくれていた4年生がいたので、個々の意識が低い状態のまま選考会に臨んで良い結果が得られませんでした。4年生に甘えてしまっていたという弱さはすごくありました。

未曾有の感染症の影響はもちろん大阪経済大学にも襲いかかった。
昨年の4月に発出された緊急事態宣言。大学は全てオンライン授業となり、部活動も言語道断だった。集まることのできない練習環境は、特に長距離種目では辛い。自粛期間でまともに練習を積めなかったメンバーはその見た目にも顕著に現れたそうだ。自粛が明けてからもその流れを断ち切ることができなかった大阪経済大学は、中心であった4年生を有した状態でも選考会を勝ち抜くことはできなかった。「4年生がいるから」を理由とし、個々が明確な目標を設定し達成へ向けて練習できていなかったのである。
感染症による影響は昨年の大阪経済大学を鈍らせた根源ではあるものの、今年のチームにとっては意識を改善するための好機会となった。今の大阪経済大学はコロナ禍を成長の糧にしたのである。ここにも「環境を言い訳にしない」特有の精神が活かされたのではないだろうか。

6.丹後駅伝に向けて

——丹後駅伝の区間割はどのタイミング?

昨年は上りに強い選手、下りに強い選手がいたので、その選手を使っていました。ヒルトレーニングとして坂を上る練習などをしていたので、そういった練習の中で吟味しながら決めていました。大体の区間割は練習で決まっているのですが、確定するのは直前です。丹後のコースは特徴的なので難しかったですね。チームの幹部で話をし、その後候補としてコーチに伝えて、全員で話し合って決めています。

——駅伝に向けた練習で特に取り組んでいることはありますか?

選考会に向けた練習と変わらず、全員が外さない練習をしていくことが一番のポイントではないかと思います。練習を大幅に外している選手は駅伝では使えないので、全員が駅伝に向けて淡々とできる練習に取り組んでいます。

——最後に、丹後への意気込みをお願いします。

丹後駅伝は昨年6位、一昨年4位と順位が振るいませんでした。しかし今年は選考会で3位に食い込めたので、これからの大会も上位に食い込んでいきたいです。丹後駅伝での今年のチームの目標は2位以内です。そこを目指して頑張ります。

全日本大学駅伝の選考会では京都産業大学を破り3位、出雲駅伝では関西学院大学を約40秒差で破る。意気込みにも語られている2位以内は今の大阪経済大学の力を持ってすれば可能である。立命館大学の優勝と関西学院大学の準優勝が鉄板化している近年の丹後駅伝。ここに大阪経済大学は一矢報いることができるだろうか。

11月7日の午前8時5分には全日本大学駅伝の号砲が、11月20日の午前7時45分には丹後駅伝の号砲が予定されている。丹後駅伝はあすリートチャンネルでのLIVE配信も予定されている。
結束による急成長を遂げる彼らは、環境を言い訳にせず一周280mの土トラックから伊勢路へ丹後路へやってきた。その勢いはもう誰にも止められない。

彼らの活躍にぜひご注目いただきたい。

画像3


大阪経済大学陸上競技部HPはこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?