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すぐに「ごめんなさい」とあやまるようになったK子ちゃん 【子育て真っ最中!のあなたの話を聞かせて①】

「子育て真っ最中!のあなたの話を聞かせて」シリーズ記事は「HSC勉強交流会」の取り組みの一環です。子育て真っ最中の方からお話を聞き、note記事にまとめたりワークショップの題材に使わせていただいたりしています。

今回のお話は、ワークショップの題材にさせていただいた例を再編集したものです。ワークショップ使用時とは違う構成になっています。

個人が特定されないよう、設定などは変えてあります。
その上で、お話をいただいた方の許可を得て掲載しています。

小学校3年生になったK子ちゃん。お母さんは最近、K子ちゃんとの関わり方で悩んでいます。悩んでいるのは主に次の3つのことです。

お悩み1 物の名前を「すっとぼける」

たとえば「リモコン」をとってほしい時にK子ちゃんは
「四角くて、ボタンがいっぱいあって…」と特徴を言ってきます。
「え、なに?」「それ、なんのこと?」「何に使うの?」と散々聞いた末に「リモコン」だということが分かりました。

K子ちゃんとはスムーズに会話できないことが多く、お母さんは「まただ…」と思ってイライラしてしまいます。

お母さんが「夕飯に何が食べたい?」と聞くと、
K子ちゃんはメニュー名自体を言わずに「肉が入ってるやつ」と言うので、
「それ、いつ食べた?」「他に入ってたものは何?」「どんな味?」
と散々聞いた末にそれは「唐揚げ」だったことが分かりました。

お母さんによると、K子ちゃんが「名前をすっとぼける」ときは、以下の3パターンくらいがあるそうです。

  • 冗談でわざととぼけている

  • 本当に言葉が出てこなくて言えない

  • 他に言いたいことがある

お悩み2 要求そのものを言わない「察してちゃん」になる

・「のどがかわいたな」と言っている時は「ジュース飲んでもいい?」
・「ゲームやりたいな」というときは「この前みたいにドリル一個やったらゲーム15分やりたいです」
・「こわい」というときは「一人で取りに行くのがこわいからついてきて」

このように「何をしたいか(してほしいか)」という要求そのものを言わないで、相手がそれを察してくれるように仕向けてきます。K子ちゃんの様子を見て、お母さんはとても心配になります。こういう言い方では、周りの人が必ずしもK子ちゃんの言いたいことを察してくれるとは限りません。これから先、自分から助けを求めることができなければ、K子ちゃん本人が困る場面もあるだろうと思うのだそうです。

お悩み3 すぐに謝る

K子ちゃんは何かとすぐ「ごめんなさい」と謝るくせがあります。
たとえばご飯の時にしょうゆを必死に取ろうとしていたので、
お母さんが「そういうときは『取って』って言えばいいんだよ」と言うと
「ごめんなさい」と言ったり。
宿題をやるとき、お母さんが「漢字ドリルからのほうが良くない?」と言うと「ごめんなさい」と言ったり。

お母さんが「謝ることじゃないよ」「説明してるだけだよ」と言うと、K子ちゃんは「そっか」などと答えるそうですが、お母さんは「また委縮してる」と悲しくなるそうです。

お母さんへのヒアリング

Q1 いつから「すぐ謝る」ようになりましたか?

A1:K子がふざけて物の名前をわざとすっとぼけている時に、イラーっとしてしまい「それくらい名前分かるよね?」「わざとすっとぼけてるの!?」と怒って言ってしまって、それ以来かもしれません。

Q2 「唐揚げ」という言葉が出てこない時、K子ちゃんはどんな雰囲気でしたか?

A2:言葉が出て来なくて困っていたけど、たくさん会話ができてうれしそうでもありました。

Q3 今のような癖が出る前は、どんな子でしたか?

A2:保育園に上がる前まではとても元気な子でした。保育園に入るとモジモジして怖がりなところが出てきました。小学校に上がり、下の子が生まれて私に余裕がなくなったあたりから今のような癖が気になるようになりました。

Q4 K子ちゃんとの関わりを、どんな風に変えていきたいですか?

A4:物の名前をすっとぼけたりせずに、スムーズに会話してほしいです。
「察してちゃん」ではなく、思っていることが自分から言えるようになってほしい。私もイライラしたり、悲しんだりせずに楽しく過ごしたいです。

K子ちゃんの3つの癖は「ラケット行動」だと考えられます。
「ラケット行動」は「本当の気持ち」を覆い隠す代わりの感情「ラケット感情」に関わる行動です。

K子ちゃんの年齢ではまだ「本当の気持ち」を表現するのが難しく、その代わりに「ラケット行動」を使って「本当の気持ち」の一端をお母さんに何とかアピールしようとしているのかもしれません。

「ラケット行動」について、詳しくは管理人の別アカウントに掲載しています。

しかしお母さんの考えている通り、K子ちゃんの3つの癖(ラケット行動)はその場の状況や自分の気持ちの表現としてはふさわしくないものです。K子ちゃんとの関わりを良い方に変えるにはどうしたら良いでしょうか?具体的な場面での関わりについて、お母さんと話し合って考えてみました。

こんなときはどうしたら?~具体的なお困りシーン2選~

①「名前をすっとぼける」+「察してちゃんになる」のコンボ

以前に忘れ物をして学校で借りたことがありました。借りたものを返さずに家の棚に隠していたので、「返しといて」と言いました。しかしできないのでお母さんが放課後に学校へ送っていきました。
学校に着くとK子ちゃんは「えーっと、どこに行けばいいんだっけ。先生がいる、うーん…」と、返しに行くべき場所の名前を言いません。
その場所の名前は「職員室」です。お母さんは「早く言ってほしいな」と思いつつ、この時言葉が出てこないのは「不安でついてきてほしい」からだということが分かりました。
「職員室ね…。一緒に行こう」と言って職員室までついていき、無事に返すことができました。

お母さんは「この時なんて言えば良かったんでしょう?」と言っていましたが、お母さんの言葉がけのようで良かったのではないかと思います。
「場所の名前を言わない」という部分にフォーカスして、「それはどこなの?」「分かるでしょ?」「言ってごらん?」などと言うと、たぶんますます言葉が出てこなくなってしまいます。お母さんがサラっと「職員室ね」と場所の名前を言ってあげたのは良かったと思います。
さらに「ついてきてほしい」というK子ちゃんの本当の気持ちを分かってあげたのも、とても良いと思います。K子ちゃんは緊張していたかもしれませんが、お母さんがそう言ってくれて安心できたのではないでしょうか。

②「宿題をやらないループ」+「すぐにあやまる」

  • 宿題をやらない

  • 怒られると思う

  • 隠す

  • 見せないようになる

  • 宿題がたまる

  • 分からないところが増える

  • 宿題をやらない(↑最初に戻る)

このように悪循環になっていきます。お母さんが「宿題やった?」と聞くと、例の「ごめんなさい」とあやまるクセが出現します。でも宿題のことは言わなければなりません。どうすれば良いか分からないまま、宿題がたまっていきます。

「宿題をためる」ということもまた「ラケット行動」です。さらに「宿題やった?」と聞かれると「ごめんなさい」と返すことがクセにもなっているようです。このままではお母さんもK子ちゃん自身も困りますよね。
この決まったやりとりをまずは崩すために、「宿題やった?」という質問を他の質問に変えてみるのはどうでしょう?とご提案しました。
「今日宿題何がある?」「宿題何時から始める?」「今日はどこまで終わらせたい?」など、受け答えが「ごめんなさい」以外になるように誘導するのです。
実際にお母さんがそうしてみると、K子ちゃんは文句ばかりだけどたくさんしゃべったそうです。「黙るより全然良い!」とお母さんは感じたそうです。

その後の関わり

K子ちゃんの変化

3週間ほどしてお母さんにまたお話を伺ってみると、K子ちゃんが「物の名前をすっとぼける」「察してちゃんになる」ということはなくなったそうです。ちゃんと要求が言えるようになり、表情もずいぶん明るくなったそうです。

お母さんの変化

話を聞いてもらって以来、私がイライラすることが減って、焦らなくなりました。K子の宿題を見る時間を作って、終わるのを見届けるようになったので、その分宿題のことで怒る場面が減ったのがまず一つです。夫もK子の宿題を見てくれるようになりました。
ちょっと前にK子が「大人で生まれた人」の話をしていて、「何のことだろう?」と思ったけれど、それは「前世の記憶を持ったまま生まれた人」という意味でした。そのあとK子は「ごめん、私、説明が下手だから…」と言っていたので、わざと言わないのではなく本当に言葉が出てこないんだなということが分かりました。
宿題を見たり、一緒にお風呂に入ったりして一緒にいる時間を増やしたら、K子は楽しそうにしています。私が話すよりK子の話をなるべく聞くようにしたので、K子が考えていることも分かってきて、それで怒らずにすむようになったということもある気がします。

お母さんはK子ちゃんの行動に対して「イライラする」という自分自身の感情にだいぶ悩まされていたようです。そこから抜け出すカギは、行動の裏に隠されたK子ちゃんの「本当の気持ち」を知ることでした。
もともとお母さんはK子ちゃんの本当の気持ちに気づいていたみたいでしたが、今回お話をうかがう中でより明確に認識され、それがK子ちゃんの気持ちに寄り添っていくことにつながったようです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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