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「Kone Kone Project」 粘土を使ったデザイン思考ワークショップを行いました!

はじめに

みなさん、こんにちは!
いつもIBM UX Communityをご覧いただき、ありがとうございます。

IBM Client Engineering(ICE) のデザイナー、緒方胤浩です。
今回は、先日ICEデザイナー内で実施したワークショップをご紹介します。
 本記事では、「粘土をこねることを通じて、アイデアを触覚的に共創するとは?」を主題に、ワークショップの内容と、どのようにプログラムを設計したのかについて書いています。デザイナーに限らず、多くの方に読んでいただき、参加してみたいと思っていただければ幸いです。

実施内容

早速、どんなことをしたのでしょうか。
 ワークショップの設計は、初めてまたは久しぶりに粘土を触る人でも安心のプログラムになるように心がけました。したがって、粘土の触り方レクチャーから始め、ウォーミングアップ的な制作を経て本編に進む、という内容をトータルで3時間、実際に粘土を触る時間は1時間強という構成にしました。

では、どんなテーマで制作に取り組んだのか、どんなものが出来上がったのかを詳しく説明する前に、なぜこのようなワークショップを開催することになったかの経緯を少しお話しします。

ワークショップのスケジュール
ワークショップ(通称、粘土会)のプログラム内容と各アクティビティの所要時間

背景と目的

本ワークショップを実施するきっかけは二つありました。
一つ目は、CEデザイナーのリーダー、〈まっさん〉が1人の新人デザイナーから言われた一言でした。
私はデッサンや造形をしたことがなので、何かやってみたいです
 改めて考えると、昨今のUXデザイナーは、いわゆる造形的な学びの経験を持つ人々だけでなく、エンジニアリングや文化人類学、社会学などを学んだ人々も増えています。UXデザインの本質は造形にあるわけではないですが、この状況自体は素晴らしいと思いつつも、造形を通じてコンセプトと実際の形状とを行き来しながら形を作り上げる、フィジカルな経験は何らかの形で役に立つのではないでしょうか。頭で考えるだけでなく、手や体で感じる体験は何か別の気づきを与えるはずです。それは目の前で即座に起こるトライ&エラーであり、作ることも壊すことも、目の当たりにして何かを感じ取ってほしいと、〈まっさん〉は考えていました。

二つ目は、チームビルディングです。お互いにコミュニケーションを取ることは大前提ですが、あるひとつの方向に向かって力を合わせる時、チームは思いがけない力を発揮することがあります。そのことを〈まっさん〉は過去の経験から知っていました。したがって、いつもの業務から少し離れて、ひとつの「まだ見ぬカタチ」に向かって無心に何かを作る時間が、チームにとって良い経験になるだろうという想いを持っていました。

というわけで、「フィジカルな触覚による体験で何かを得る」と、「さらなるチームビルディングを目指す」を目的に、このプロジェクトは始まりました。
 この考えに共感した、先輩デザイナーで、学生時代のころ日々粘土と向き合っていた〈ペリさん〉と、私〈オガタ〉が企画立案と当日の司会進行を担当しました。
(背景と目的は〈まっさん〉の言葉を借りて執筆しました。)

ウォーミングアップ

さて、ここからはワークショップの様子を写真を交えてご紹介します。
 まずウォーミングアップでは、油粘土を造形しやすい大きさに分割する作業から始めました。1人1キロずつの油粘土の塊をヘラや糸を使って切り分け、こねこねすることで、最初は固かった粘土が次第に柔らかくなります。この作業は思った以上に大変でしたが、皆さんが童心に帰って楽しげに粘土と戯れていた様子が印象的でした。また、大胆に切ろうとして糸が切れたり、少しずつ慎重に切り分けたり、ハンマーで思い切り叩いたりと、さまざまな粘土との対峙の仕方から個性が見える瞬間も改めて面白かったです。

粘土を柔らかくする様子
塊の状態の粘土を切り分ける様子

粘土の準備ができたら、次に、「あなたが好きな果物」というお題で造形してもらいました。
 ここでは、果物の丸みを美しく作る人、粒々のテクスチャを再現しようとする人、食べやすい大きさにカットした状態を作る人、大胆に彫刻する人など、多様な作り方が見られました。興味深かった点は、ほとんどの人が参考画像をスマホで見ながら作ることはなく、頭の中に思い浮かぶ果物の形状が鮮明なんだろうな、ということが分かったことでした。

粘土で作った果物の造形
「あなたが好きな果物」というお題で作られた作品

その後、「あなたの考えるボタン」というお題で形を作ってもらいました。 
 このお題に対しては、UXデザイナーとしてやはり画面のボタンを作る人、それをスライドできるようにした人、服のボタンを作る人、「プチプチ」と音がしそうなボタンを作る人など、こちらも複数パターンのボタンが作られました。特に、果物と比べてサイズ感や厚みが現実世界のものとは違って違和感を感じた点が興味深かったです。今回は再現度の高さや精巧さを求めたわけではなかったですが、ある意味で概念的にボタンを捉えて形にする様子が垣間見えて面白かったです。

粘土で作ったボタンの造形
「あなたの考えるボタン」というお題で作られた作品

この二つのお題の意図は、有機的な形状と無機的な形状を対比的に作ってもらうことと、複雑すぎない形を作って粘土に慣れてもらうことでした。参加者からは「丸くするのは意外に難しい」という感想(意識と手作業のズレ)や、「ボタンって何のボタン?」という多様な解釈(正解のない回答に向き合う時間)、あるいは「無心で作っちゃうな」という声(フィジカルな経験への没入感)などを聞くことができ、まさに感じてもらえたようでした。

最後に、本編に進むための肩慣らしの意味も込めて、少しデザイン思考的な発想のトライ&エラーのアクティビティを行いました。具体的には、アイデア発想法として各所で用いられるオズボーンのチェックリスト(転用/応用/変更/拡大/縮小/代用/再利用/逆転/結合)を参考に、それまでに作った果物とボタンを組み合わせて、ひとつの作品にしてもらいました。
 結果的には、要素同士を[結合]するケースが多かったものの、ボタンをタイヤに[転用]したり、ボタンを[拡大](=重ねて高さを出)して不思議なオーラを放つオブジェを作るなど、様々な作品が生まれました。

果物とボタンを組み合わせた造形
果物とボタンを組み合わせて作られた作品

ワークショップ本編

ここまでの時間を使って、頭と体、そして粘土の準備が整いました。次に、粘土を用いたデザイン思考ワークショップ本編が始まります。事前に1チーム3人になるようにチーム分けをしておき、各チームがテーマをくじ引きで決めました。今回はA群とB群から一つずつのキーワードを選び、それを組み合わせて一つのテーマを作る方法で、ワークショップの醍醐味である即興性を演出しました。

選ばれたテーマは以下の三つです:
考える料理」「おいしい旅」「恥ずかしい音

今回の目的は、既存のモデルを模写するのではなく、未知なものを作る過程で会話が生まれ、お互いのアイデアを言語化しつつ、粘土の形状に反映させることでした。そのため、なるべく抽象的なお題になるようなキーワードを用意しておきました。A群には「考える」「おいしい」「恥ずかしい」のほかに「欲望の」「明るい」、また、B群には「料理」「旅」「音」のほかに「街」「人」が含まれていました。

テーマが決まったら、まずは個人でカタチを作るためのアイデア出し(テーマの解釈、形状へ落とし込み方など)を行い、その後チームでアイデアを共有しながら、イメージのすり合わせを行いました。そこである程度の方向性を定めてもらいつつ、まずは1人目が造形を始め、作品が次の人へと引き継がれ、最終的には3人の制作過程を経て作品が完成します。この際、制作中の1人以外の2人は、造形の考え方や方向性を探る会話を持ちながら、適宜写真を撮って変化のプロセスを記録しました。

このようなチームワークでの取り組みは、デザイン思考の共創の過程を取り入れ、粘土を用いて言語化しづらいアイデアを具現化し、コミュニケーションを促進する目的がありました。また、アイデア(=途中段階の粘土)がどのように練り上げられるかを可視化し、チーム全体で作品を完成させる体験を提供することも目的でした。

それでは各チームがどのように粘土の造形を変えていったかを簡単にご紹介します。

「考える料理」

たい焼きって人によって食べ方が違って、ある意味考える(考えさせられる)→順番がある料理は考える→小鉢たくさんある料理は考える→小鉢をとりあえず作る→馴染みない食べ物はどう食べたらいいか考える(悩む)→クスクスとか→しその実とか→お寿司も何から食べるか悩むね→料理としての体裁を整えようか→完成作品

「考える料理」の造形
「考える料理」というお題で作られた作品の制作過程

「おいしい旅」

“おいしい旅”と聞いて連想したものが駅弁→釜飯駅弁のワクワク感が良い→釜の中にもっと美味しいを詰めよう→花開くように飾り切りしたような具材を入れる→旅の感じを釜の下に線路を轢いてより表現しよう→3人目が釜の形の大改修(ブラッシュアップ)→大好きな台湾の小籠包を入れる→完成作品

「おいしい旅」の造形
「おいしい旅」というお題で作られた作品の制作過程

「恥ずかしい音」

恥ずかしいって人間以外も感じる?→社会性があると恥ずかしい→頭隠して尻隠さずの穴を作ろう→穴ってなんか恥ずかしい→狭いとこの間から出てくる音さらに恥ずかしいからボール2個作ろう→周りに注目されて、歩き回っていろんな人に聞かれてると恥ずかしい→高くして耳と足つけよう→頭の上からぷっぷって音が出てて上が恥ずかしいのに、モンスターだから恥ずかしい箇所がわからなくて違うところを隠してるポーズにしよう→完成作品

「恥ずかしい音」の造形
「恥ずかしい音」というお題で作られた作品の制作過程

このように3チームがそれぞれ全く異なるアプローチで制作を進めていました。
 個別に見ると、料理チームと旅チームは、お互いが持つイメージを補強しながら、完成品に近づけるようなプロセスで造形していた点と、無心に作り込むような取り組みの姿勢が特徴的でした。一方で音チームは、どうしたら音を恥ずかしいと感じるのか?など、ある意味哲学的な視点にまで議論が広がったことと、抽象的なものをカタチにする創造力が特徴的でした。
 いずれのチームも普段は考えないようなお題に対して、色々と意見を交わしながら、イメージをすり合わせつつ、粘土をひとつの作品として作り上げることができて、当初の目的は達成できたかなと思います。何より、どのチームも楽しそうに手を動かしていたので(笑い泣きしてるチームもありました)、チームビルディングという観点でも目的を達成できたかなと思っています!

粘土をこねる作業の様子
粘土をこねる作業の様子

さいごに

最後に参加者の感想をいくつか紹介してみます。

よかったこと

「体も使った気がする」「癒しになった
「鈍ってた感覚(触覚・嗅覚とか)が少し取り戻せた気がします!」
デジタル以外の創作は久々すぎた。良かった」「Macから離れられたのが良い」
「1つのテーマでも異なる考え・解釈を共有できたのが面白かった」
「他の人の考えを聞いて造形を変更したり、こうじゃない?と付け足したりできて楽しかった」
「エンジニアさんとかもすごい興味を持ちそうなプログラムだと思った」
「デザイナーチーム1/3も集まったのがすごい」

反省点

「第二部(WS本編)が難しかった
「第2部の進め方が少しふわっとしていたかも。チームで円滑に議論できなかった気がする」
「粘土のうんちくをもっと聞きたかった」
「くじ引きの言葉、別のワードを選び直したかった笑」
「抽象度が高い方が面白かったのかも(結果的な話)」「複数人で作る際、抽象的なお題の方が解釈自由で面白くなるのかも」
「もう少し何をするかを別のデザイナーにリマインドできたら参加したかった人もいたかも?」
「1回で終わりではなく、シリーズにして何か達成感あるプログラムにするとよさそう?」

こうしたコメントを受けて、本ワークショップは部分的に成功し、部分的には反省材料が見つかる結果だったなと考えています。よかった点は上でも書いた通りですが、あらためて難しかった点は、造形のトライ&エラーにまで踏み込めなかったことです。やはり同じチームの人が作った作品を途中から一旦壊す勇気が出なかったり、短い時間で仕切り直すことは難しいようでした。一方で、無心に手を動かして造形することや、正解のないカタチを考えて粘土で表現してみるという目標は達成できました。それらを踏まえて、もう少し意図的に造形の仕方を促すようなガイド付きのワークショップの進め方を考えることが改善点として挙げられました。また、本編だけを切り離して段階的に進めるような構成もできるかもしれません。

何にしてもそのような気づきを、企画側も得られたことは一つの成果と言えるかなと思っています。また、デザインリサーチの観点では、インタビューなどの一般的な方法では聞き出せないユーザーの深層心理を、粘土やレゴなどを使って表現してもらうために「Generative Design Research」という手法が存在していることや、デザイン思考を推進してきたスタンフォード大学のd.schoolが近年「navigating ambiguity」をキーワードに、複雑で答えのない問いに創造的に取り組むための方法を探求していることなどにつながるヒントがあるのではないでしょうか。このように、デザインに還ってくる意義も見出せる、そんなKone Kone Projectの面白さを改めて認識することができました。

ぜひ次回を開催できるように企画を練り直して、今回参加できなかったデザイナーの皆さんや、同じClient Engineeringに所属するエンジニアの皆さん、ゆくゆくはIBM Technologyのリーダー層の方々にも参加してもらえたらな、なんて妄想を膨らませながら、この記事を締めくくりたいと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

参加者の集合写真
ワークショップ当日の様子



その後(2024.03.18 追記)
約半年の時を経て、お客様向けにも粘土ワークショップを実施させていただくことができました!お客様にはデザイナーのラキさんが紹介してくれたので大感謝です。
 今回はデザイン思考ワークショップに向けてのウォーミングアップチームビルディングの一環としてご利用いただきました。テーマを少しアレンジしましたが、前回同様にグループで粘土を使って思い思いの作品を造形していただきました。会自体とても盛り上がり、本編のデザイン思考ワークショップでの活発な議論の雰囲気作りに貢献できたかなと思っております!
 ご興味のある方はぜひともお声掛けください。

スーツ姿の会社員の人たちが粘土を触っている様子や、その時に作られた作品。立ち上がって作品を作る人や、ヘラで細かなテクスチャをつける人などが4枚の写真で示されている。
当日の粘土WSの様子
説明に使用したスライドの一部が並べられた画像。はじめに、イントロダクション、企画意図、テーマ、本制作の項目に対して図や簡単な見出しで説明されている。ただし詳細は割愛。
説明資料


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