「趣味は(漫画)読書です」と堂々と言いたい
わたしの名前はちょっと変わっている。
両親は国語辞典から取ったと言っていた。
わたしが生まれた数年後に
同じ名前のキャラクターが出てくる漫画がはじまり、
やがてそれがアニメになったことで、
その名前の認知度は全国的に爆上がりした。
田舎のひまな中学生たちは
わざわざ違うクラスの同名の生徒を観にくるくらい娯楽に飢えていたようだ。
時にモノマネを期待されたが、
わたしとそのキャラには共通点が一個もなかったので、
わたしにはどうしようもないことだが
当時は若干いい迷惑だった。
わたしの妹の名前はそれほど変わってはいなかったが、
件のアニメのおかげでそれに出てくる別のキャラに勝手に変換されて呼ばれることが多かった。
妹にとってもいい迷惑だったと思う。
わたしの弟の名前はそれほど変わっていないが漢字が変わっている。
両親は好きな漫画に出てくるある兄弟の名前から取ったと言っていた。
両親は名前をつけるということを
あまり深く考えていなかったのかもしれない。
ちなみに両親はいたって普通の名前だ。
わたしが住んでいた家には大きな本棚がいくつもあって、
その半分くらいは何百冊かの漫画で占められていて、それは両親の趣味だった。
わたしたち姉妹弟は手塚治虫やちばてつや、大島弓子や萩尾望都を毎日のように読んで育った。
さらに小学生のとき、
暇を持て余したある休日の午後、
母と妹と私は家でだらだらと取り留めない話をしていた。
ふと、その時に昔アニメでやっていた
「ガラスの仮面※」の話になり、
「そういえば、紅天女って最後どうなったんだったっけ?」
「結局アニメでは決まってないんじゃなかったっけ」
(※ガラスの仮面=いわずとしれた日本を代表する演劇漫画。
伝説的な演劇「紅天女」の後継者候補の2人の少女が白目を剥きながら火花を散らす話。
この時点で40巻まで発行されていた大作で、
なぜか長年筆が止まっているため未だ未完成。)
アニメ版しか見たことがない我々は極めて情弱だった。
と、そこで母がいきなり2万円を出してきた。
「原作を全巻買ってらっしゃい。」
私と妹はそれぞれ1万円ずつを握りしめて町中の本屋を巡り、片っ端から「ガラスの仮面」を買い漁った。
私は頭の1巻から、妹は後ろの40巻からを順に買っていき、途中途中で家に電話をいれ、
何巻から何巻まで買ったか、あと足りないのは何巻かを確認し、夜になる前には我が家に「ガラスの仮面」が40巻積み上げられ、
晩ごはんもそこそこに3人で読みふけった。
というわけで、ただでさえスペースがない本棚に40冊の漫画がプラスされた。
自分でお金を稼ぐようになると、独自の嗜好による漫画を買うようになった。
学生の時には青春ぽい青い漫画、
(まっすぐにいこう、ご近所物語、ハチクロとか)
就職すると若者が仕事に恋愛に迷いながら成長していく漫画、
(サプリ、働きマン、ピースオブケイクとか)
歳を取ると結婚して家庭を持った人の漫画、
中年が主人公の人生黄昏漫画、
外国の話、地方の話、漫才の話、音楽の話、山の話、介護の話、…etc
いつしか、わたしの本棚は当時の実家と同じくらいの量の何百冊かの漫画になっていた。
さらに断捨離した分、電子書籍の分も合わせると軽く1部屋が本棚で埋まるくらいだったろう。
あまり計算したことがないが、これまで漫画に費やしたお金がどのくらいになったのか考えると、
実家の分も合わせて相当な額になったに違いない。
(基本的には作家に敬意を払って、よほどの事情がない限りブック●フなどは使わない)
その分わたしの人生は漫画に相当助けられてきた。
大好きな人に失恋して死ぬほど泣いた時。
仕事にどうしようもないほどやる気を無くしてしまった時。
とにかくこのまま生きていることへの不安に駆られた時。
本棚の1冊を手に取り、ページをめくるといつのまにかのめり込んで、「まあなんとかなるか」と苦しさを忘れさせてくれることもあれば、
ある漫画のさりげない台詞が救いを与えてくれることがあった。
わたしにはわたしの本棚がついている。
だからわたしは大丈夫。
わたしは趣味を尋ねられた時
「映画、音楽、読書です(にっこり)」
と答える見栄っ張りではあるが、
漫画と大大大昔から友達でいられてたいへん幸運である。
だから漫画を読む趣味をもっとカッコいい言い方で表すことができないか、
どなたか考えてくれないだろうか。
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