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〈ケアデザインサミット2023〉第三部くらしとまちづくり―BOLDLY 佐治友基さん

2月25日に開催された「いばふく ケアデザインサミット2023」。
福祉に従事する方を対象に、特別な「出会い」を提供し、多角的に福祉を捉えられる機会と実際の現場で活かせる知識や技術を提供するサミットです。
「あ、そう」の転換! ケアにひらめきを!
というキャッチコピーがつき、介護福祉の12名のスペシャリストが登壇。無関心が関心に変わる出会いと対話を体感できる講座が開かれました。

このイベントに、取材チームとして参加してもらった執筆家の山本梓さんに、レポートをお願いしました。すると、「感動しすぎたので登壇した12名すべての方を紹介します」という言葉が……! たしかに、持ち時間一人15分はもったいないくらいでしたね。福祉を外側から見た、山本さんならではの目線で自由に記事を書いてもらいました。
ぜひ、お楽しみください。

自動運転バス。運転手が運転しなくても、乗客を乗せてバスが走る。
今回は、この未来の乗り物を「現代に不可欠な乗り物」としている人のお話だ。

「こんにちは! 佐治と言います。大さじ、小さじの“さじ”と覚えてください」
2月下旬だと言うのに、半袖姿で現れた佐治さん。会場の気温も心なしか上がった……?

「僕は、勝田第一幼稚園、外野小学校、そして茨大付属中に入って、水戸一高に行って……という、正真正銘の“茨城産”でございます」
会場から「えー! わたしの家、幼稚園の目の前!」なんていう声があがる。

佐治さんは、自動運転バスの事業をする株式会社BOLDLY(ボードリー)を2016年に設立。
きっかけは、好きな人に好きなときに会いに行けないことだったという。

「親父が60歳のときに、脳のがんになりました。余命3か月という宣告を受けました。僕はそのとき30歳。東京で就職して働いていたのですが、茨城の実家に帰ってきては、父のお見舞いや様子を看たりしていました。余命3か月ですからね。一日一日がすごく大事じゃないですか。ただ仕事もあるし、ずっと茨城にい続けることもできない。東京から会いに行きたいと思っても、時間やお金の制約もある。
大切な人に好きなときに会いに行けないことって、交通弱者なんじゃないかなって思ったんです。こういう考え方になるきっかけを、親父は与えてくれました」


たとえば、と佐治さんは続ける。
「満員電車って、好きで乗っている人っていないですよね。あとは、子どもや両親の送り迎え。学校や習い事、病院にクルマで送っていく。大変ですよね。運転できる人ができない世代の送り迎えに時間をとられている」
こういう人たちのことも、交通弱者だと佐治さんは定義する。そこを変えていきたい、と自動運転の構想につながったという。

もともとは、ソフトバンクモバイル(当時)で携帯電話の営業を担当していた佐治さん。2015年、社内のビジネスアイデアコンテストに挑戦した。約500件の応募の中から、自動運転のアイデアが2位に。新しい会社として動き始めたという。

「自動運転と言っても、いろんな種類のものがあります。たとえば、運転席があってハンドルを触らずに走行するもの。あとは、運転席がなくて客席だけのものですね。どちらも、センサーとコンピューターとAIを使って、走らせることができます」

全国のバス会社でも問題になっているという、ドライバー不足。
「どこも素晴らしいプロのドライバーさんたちはいるんですが、高齢化してきている。新しく若い人が入ってこない。だったら、一人で同時にたくさんの運転をすればいいのではないか、と考えました」

運転席から見える画像をモニターに映す。自動運転バス5台分を一人の運
転手がチェックする、というしくみだ。
一人で5台は大変なんじゃ……と思って聞いていると、自動運転バスには安全機能が備わっているという。
会場のモニターから、ピロンピロンという音が鳴った。

「これは、システムがアラームを教えてくれています。自動運転バスの走行中に、車内でおばあさんが席の移動をしました。そのときに自転車が飛び出してきて、自動運転バスがブレーキかけた。おばあさんはどうなるでしょう?
おばあさんはどこにも捕まっていないから、転んでしまう……という『ヒヤリハット』が、バスの事故ではとても多いんです。全国バスの事故が年間2000件あるうち、600件は車内で起きている。しかも80%は高齢の女性で、転んでしまった場合90%は骨折、さらに90%は入院して寝たきりになっちゃう。こわいですよね。この事態は避けなくてはいけない。
僕らはAIで車内で人が歩いていたり降りようとしたりしている時には、バスが発車しないようにする安全システムを組んでいます」


茨城県・境町での運用


自動運転バスがもう未来の乗り物ではないことを証明するかのように、すでに運行している自治体があるという。
「境町では2020年11月から自治体で初となる公道を走る自動運転バスとして運行を始めています。フランスで生まれたかわいい車体のバスなんです。だけど、住民の人たちはもう全然気にしてない。すっかり馴染んじゃってるんですよね」

埼玉県と千葉県に隣接する境町。現在は、商店街を走る往復5キロのルートを最高18km/hで走行している。

「おかげさまで好評で、だんだんとルートを広げていきました。町のおじいちゃん、おばあちゃんが乗ってくれるんです。1人おじいちゃんが乗ると、次の日3人連れてきてくれたり(笑)。
あんまり使わないかなと思っていた子育て世代は、車1台でお父さんがクルマで仕事に出る家庭のお母さんが、よく使ってくれています」

※最新情報※ 2023年5月のニュースでは、境町ではエストニアからの新しい自動運転車両を10月の導入開始を目指して試運転をしているとのこと……! より高性能の自動運転が可能になるんだそうだ。
(引用:東京新聞 2023年5月20日)

移動すること自体が無料になればいい、と佐治さんは言う。

「移動って、横に動くエレベーターだと思うんです。エレベーターに乗る時100円払ったことある人いますか? いないですよね。それで、好きな時に好きな人に会いに行けて、行った先でお金を使って帰ってくる。そうやってお出かけの回数が増えていくと、それが町の元気につながるんじゃないかなと思うんです」

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ペーパードライバーの旅行好きな筆者は、どこに行くにも公共交通にお世話になっている。というか、バスも鉄道も大好きなのだ。特に、地域に密着して走行する路線バスに乗ると、その土地の雰囲気がよくわかる。乗客同士が声をかけ合ってバスを乗り降りするシーンや、車内でのおしゃべり、運がよければ旅人として仲間に入れてもらえることもある。
佐治さんの言う“プロフェッショナルな運転手”の振る舞いにしびれることも多々あった。が、この運転手がいないバス、どんな感じなんだろう?

公共交通好きとしては、自動運転バスに乗りに境町に行ってみたくなったぞ……!


▼BOLDLY(ボードリー)
https://www.softbank.jp/drive/
▼ボードリー・コンセプトムービー
https://youtu.be/jbSFLIvQ3hE
〈参考〉
https://www.sbbit.jp/article/cont1/78696



text & photo by Azusa Yamamoto
photo by Takehiko Kobayashi


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