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〈ケアデザインサミット2023〉第三部くらしとまちづくり―ながよ光彩会 貞松徹さん

2月25日に開催された「いばふく ケアデザインサミット2023」。 福祉に従事する方を対象に、特別な「出会い」を提供し、多角的に福祉を捉えられる機会と実際の現場で活かせる知識や技術を提供するサミットです。
「あ、そう」の転換! ケアにひらめきを!
というキャッチコピーがつき、介護福祉の12名のスペシャリストが登壇。無関心が関心に変わる出会いと対話を体感できる講座が開かれました。

このイベントに、取材チームとして参加してもらった執筆家の山本梓さんに、レポートをお願いしました。すると、「感動しすぎたので登壇した12名すべての方を紹介します」という言葉が……! たしかに、持ち時間一人15分はもったいないくらいでしたね。
福祉を外側から見た、山本さんならではの目線で自由に記事を書いてもらいました。 ぜひ、お楽しみください。

――長与町(ながよちょう)。長崎県の真ん中に位置する大村湾を抱くこの町に、遊びに来ている。「み館」。この名で呼ばれるここは「みんなのまなびば」というタイトルとともに、「まちのリビング」というキャッチコピーがついている。
初めて訪れているのに自分ちのリビングのごとく、ウッドデッキにかかったハンモックに揺られてぼんやりする。手元には、スタッフのナラさんが丁寧に淹れてくれたコーヒーが。……ああ、おいし。
小学生の低学年くらいだろうか。男の子が一人やってきて、入口で大人たちとおしゃべりしている。
窓を全開にしてオープンなスペースになっているから、午後の風が入ってきて心地いい。男の子の様子をなんの気なしに目で追うと、コーヒーを淹れるお手伝いをしている。
実は、コーヒーを淹れているナラさんは焙煎までできるコーヒーのスペシャリストで、淹れ方教室まで開いているという。コーヒーは、だから美味しいわけだ……。
夕方、お手伝いを終えた男の子はお菓子をもらって元気に帰っていった――。

***

高齢者福祉事業を行う「社会福祉法人ながよ光彩会」の理事長・貞松徹さんの話を聞いて、「み館」を訪れたときのことが思い出された。

「オープンな空間になっている『み館』ですが、その中にグループホームが3ユニット在ります。改装をする前は大きな白い壁があって、ただの白い建物という印象しかなかったんじゃないかな。目の前に小学校があるんですが通る子どもたちはこちらを見もしなければ、入ってくるなんてことはありませんでした。
子どもたちに目を向けてもらう、認識してもらうためにどうしたらいいのか? さらには、入ってきてもらうための導線づくりは? など、いろんな試行錯誤をして『み館』はできたわけです」

子どもたちに気づいてもらうためのオープンデッキにハンモック、だったわけか。入ってきてもらうための導線づくりが、コーヒーの淹れ方教室……?

「うちの職員は、多様なメンバーで構成されていることに気が付きました。単身者。夫婦。子どもがいる家庭。いない家庭。シングル家庭。外国籍の人。前科のある人。LGBT当事者。最高齢は73歳。法人の中にダイバーシティ(「多様性」の意味で、人種・性別・宗教・価値観などさまざまに異なる属性をもった人々が、組織や集団において共存している状態を示す)があって、社会の縮図になっている。
『み館』は、誰もがせんせい、誰もが生徒になれる場所。“きょうしつ”を開くことで、施設の中からも外からも人が集まれるようにしました」

ちなみにナラさんの平日の顔は、理学療法士である。

「『み館』を開いて気づいたのは、学校に行っていない子どもの居場所になっているということ。さらに、もう少し踏み込んだ言い方をすると、虐待の疑いがある家庭、経済的に困窮している可能性がある家庭の子、なんていう事例も耳に入ってくるようになりました。
けれど、ここで真っ向からこれらの問題を解決しよう! と動くことは、『みんなのための場所』としたときにはどうなんだろう? 職員たちと対話を続けてきました」

「み館」では、子どもたちに無償で何かを渡すということはしていないそうだ。
多様なメンバーのひとり(タイ国籍)であるスタッフが、母国のタイ料理を教えるきょうしつを開く。コロナ禍で故郷に帰省ができずに寂しい思いをしていたスタッフが発案したという。
子どもたちはきょうしつを手伝い「み館ポイント」をゲット。料理きょうしつの場合は、一緒に作ったごはんを食べることもできるという。

わたしが見かけたコーヒーのあの子は「み館ポイント」を使って、お菓子を手にしていたんだ!

「パチンコ行ったことある人!」
貞松さん、ここで突然会場に呼びかけた。
「行ったことある人ならわかると思うんですが、パチンコ屋さんで、換金した残りのパチンコ玉をお菓子に換えるという選択肢があります。ここからは“親父あるある”だと思うんですが、普段、家にお菓子買って帰らないお父さんは、パチンコで得たお菓子を家に持って帰ると、お母さんにパチンコ行ったことがばれちゃう。結局、かみさんにばれたら怒られるからって、お菓子はパチンコ屋さんにある回収ボックスに入れられる。回収されたお菓子は、児童養護施設や学童保育に配られます。
結構な量なんです。5合炊き炊飯器3つ分くらいが1日で集まっちゃう。養護施設や学童だけでは、さばききれない。……賞味期限が切れたものは破棄されていく。
だったら、それ『み館』にください、と。『み館』でお手伝いをしてくれた子どもたちが、み館ポイントを貯めて得るのは、そういうお菓子なんです」

男の子がもらっていたお菓子にまで、こんなバックストーリーもあったのか……!


「み館」は駅のしごとも担う……?


貞松さんは2023年9月、さらなるチャレンジをするという。

「JR九州のプロジェクト『九州DREAM STATION』のにぎわいパートナーとして、ながよ光彩会が選ばれました。このプロジェクトは、JR九州が民間事業者と協力して駅や線路を活用した地域活性化を目指すというもの。
わたしたちは、長与駅の駅員が不在となる正午~17時の時間帯に法人職員が一部の駅業務を担うことになります。高齢者福祉としての長年の実績を認めてもらい、乗降介助業務※も任せてもらえることになりました。これは、民間事業所が担うのは日本初だということです」

※乗降介助業務……鉄道の乗り降りの際に、車椅子等を利用する乗客をスロープ等を使ってサポートをすること。

長与駅構内にあるコミュニティホールや駅前のロータリースペースの活用も合わせて展開していくとのこと。コーヒーを淹れてくれたナラさんによる自家焙煎コーヒー豆は、長与駅で購入できるらしい!
「ながよ光彩会」のある長与町が、これからますます面白くなっていきそうだ。また、遊びに行きたくなっている……!


▼貞松徹さん(ながよ光彩会関連含む)のリンクツリーhttps://linktr.ee/torusadamatsu
▼ART Walking in NAGAYO(ウォーキングイベント)https://youtu.be/4pCrBr0ItuM


text & photo by Azusa Yamamoto
photo by Takehiko Kobayashi


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