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〈ケアデザインサミット2023〉第一部くらしと福祉―すみなす 西村史彦さん

2月25日に開催された「いばふく ケアデザインサミット2023」。
福祉に従事する方を対象に、特別な「出会い」を提供し、多角的に福祉を捉えられる機会と実際の現場で活かせる知識や技術を提供するサミットです。
「あ、そう」の転換! ケアにひらめきを!
というキャッチコピーがつき、介護福祉の12名のスペシャリストが登壇。無関心が関心に変わる出会いと対話を体感できる講座が開かれました。

このイベントに、取材チームとして参加してもらった執筆家の山本梓さんに、レポートをお願いしました。すると、「感動しすぎたので登壇した12名すべての方を紹介します」という言葉が……! たしかに、持ち時間一人15分はもったいないくらいでしたね。福祉を外側から見た、山本さんならではの目線で自由に記事を書いてもらいました。
ぜひ、お楽しみください。

「社会」と「世界」をつなぐ


西村史彦さんのパートなのに、いきなり自分のことを書きます。どうか数行おつきあいください。
わたしは「社会と世界をつなぐこと」をめざして、文筆や編集などの表現活動をしている。
生きている人間のみが構成しているのが「社会」。この世・あの世も妖怪も動植物・昆虫などの生物(もちろんヒトも)を含めたものが「世界」である、とわたしは考えている。

ヒトだけで構成される「社会」は、ぐぐっと小さく狭くなりやすい。狭くなった「社会」には、キツくて苦しいヒトも出てくるはずだ。
「社会」も含めた外側に大きく広がるのが「世界」。人間のなかには、この「世界」を自在に行き来できるヒトもいる。

「世界」に悠々と生きているヒトが、「社会」に閉じ込められたとき……西村さんの言う「生きづらさ」が発生する。わたしはそんなことを思いながら、彼の話を聞いていた。

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「生きづらさ」を「面白さ」に転換する


西村さんは自身の生きづらさから、アートに特化した就労支援をするためのアトリエ「GENIUS」を立ち上げたと言う。
「落ち着きがなくて、興味がうつりやすくて、継続が苦手。たとえば『タバコやめます』って言って、5分後ぐらいには吸ってます。そういうことを素でやっちゃうんですよね」
子どもの頃からじっとしていられなくって、絵を描くことで安心・集中できたそうだ。

「絵を描くことは好きだったんで、芸術系の大学に進学したんです。だけど、今でこそ嘘でしょって言われるんですけど、めちゃめちゃ人見知りだったんですよ。誰とも全然喋れなくて、大学に行けずに、わずか半年で中退しました。
福岡で一度就職をしたもののつづかず、何かしら自分の表現をしていない生きていけない人間だったので、『日本でできないことをしたい』とカナダのトロントに向かうことにしました。だけど、何にも決めてなかった。トロント行きの飛行機内で、アートをするか、音楽をするか、コメディアンになるかを考えていたくらい」

トロントには「リトルジャマイカ」と呼ばれるエリアがあり、そこでの出会いがきっかけとなって音楽の道を選び、日本語でレゲエ歌っていたという西村さん。はっと気がつくと、チャイナタウンの街角でホームレスと添い寝をしていたこともあるんだとか。

その後、レゲエの本場・ジャマイカに行き、ひとつのターニングポイントがあったという。
「カリブ海の水平線をぼーっと見ていたんです。空と海がきれいに真っ二つに分かれていた。そのときにふと思ったんですよね。人間は表裏一体だなって。凹んでいる部分もあれば、突き抜けている部分もある。ヒトの突き抜けている部分を活かすことが、俺の社会的役割なんじゃないかって」

「GENIUS」のアーティストたち


ここで、ヘリコプターの写真が映し出され、会場に問が投げかけられた。

Q. この飛んでいるヘリコプター。この状態でヘリの羽の数が分かる人、いますか?

静まる会場。西村さんはつづける。
「そんなの無理だと思いますよね。けれども実際には、いるんですよ。うちに所属しているアーティストがそうなんです。僕にとってはミリタリーおたくのフツーのおじちゃん。好きが高じて、21年間も自衛隊で勤め上げた方です。在籍中にうつ病と診断されて、働けなくなった。飛んでいるヘリの音を聴いただけで翼の枚数を当てられるなんて、才能でしかないじゃないですか。突き抜けている部分を活かしたいと、『GENIUS』に来てもらっています」

現在、「働きづらさ」を抱えているヒトは、日本に約1500万人以上いるという。
「左利きの人が10人にひとりいて、働きづらさを抱えるヒトは8人にひとりいると言われています」

左利きの人よりも多いのか……!

「GENIUS」に通うアーティストたちは、ほとんどが絵を描いたり造形の経験がない人たちだそう。
ここの特徴としては、プロフェッショナルなスキルを持つアートコーチが、アーティストたちの突き抜けている部分を引き出し、伸ばしていく支援をしている。そのうえで、生活面やメンタル面などをサポートするスタッフもいる。

アーティストの特性から、才能を見出し、社会につなげることを「すみなすメソッド」と呼び、宮崎・延岡や神奈川・鎌倉などのパートナー企業との連携も今後行っていくという。

「アートを使う・アートと暮らすをコンセプトにした『fa』というブランドを立ち上げ、障害や福祉をオモテに出さずに展開しています。僕が着ているこのシャツは『レタートゥ』、この町からあの町へ送る手紙というテーマでアーティストに描いてもらったものです。これは、ひらがなシリーズとして人気があります。シャツだけではなく、佐賀の伊万里焼のマグカップにも展開しています」

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西村さんは自身が「世界」で生きる心地よさを知っているからこそ、同じように生きづらさを抱えているヒトたちを「社会」につなぐ努力ができる。そうして窮屈だった「社会」はすこしふくらみ、ゆるやかになっていく……。


▼すみなすオフィシャルサイト
https://suminasu.jp
▼株式会社すみなす「GENIUS」
https://geniusart.jp


text & photo by Azusa Yamamoto


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