家族に何かを教えるときは、《まねぶことから》始められるように教える (大変な状況のなかでの暮らしのヒント)

まねぶことから



今日紹介するのは《まねぶことから》です。

学校が休校になり、多くの家庭で子どもに勉強を教えることをせざるを得なくなりました。

あるいは、在宅勤務になり、家族の誰か(たとえば、夫や比較的年齢が上の子ども)に、家事を分担して、そのやり方を教えるということもあるかもしれません。

そういうときに意識するとよいのは、新しいことを学ぶときには、「まずは真似て学ぶことから始まる」ということです。

「まなぶ」という言葉の語源は「真似る(まねる)」で、「まねぶ」という言葉だったという話があります。

このことからもわかるように、「真似る(まねる)」ことと「学ぶ(まなぶ)」ことは近い関係にあるのです。


例えば、子どもが算数のある新しい概念を学んでいるとしましょう。

そういうとき、たいていは、その概念について問う練習問題を解こうとしても、子どもは自分ではやり方がわからないものです。

何をどうしていいのか全くわからないので、何もできないことが多いでしょう。

そういうときに、いくら時間を取って待っていても、問題が解けるようにはなりませんし、勉強をする気持ちも削がれてしまうでしょう。

▼      ▼      ▼

そこで、真似できるように具体的にやり方を教えるようにします。

そうすると、言われたように、子どもはその通りにやってみることができます。ただ停止しているのではなく、手を動かし、頭を動かすことができるのです。

真似する」だけのそんなことに意味があるのかと思うかもしれませんが、大丈夫です。とても大きな意味があります


もっと言うなれば、そういう過程を経なければ、新しいことを学ぶということは起き得ません

そのことを研究で明らかにしたのが、約100年前のロシアの研究者 レフ・ヴィゴツキーです。

彼は、若くして病気で亡くなったのですが、非常に多彩で、数多くの概念・理論を生んだ研究者で、「心理学のモーツァルト」と言われたりもします。

ヴィゴツキーは、学習者の学びは、今わかる・できることよりも遠いところでは起きないと指摘しました。

逆に言えば、人は、教えてもらったりサポートしてもらったりしてできるようなことしか学べないのです。

専門的な言い方でいうと、「発達の最近接領域」(ZPD: Zone of Proximal Development)においてのみ教え学ぶことが可能であるということです。

今一人でできることのちょっと外側の領域(発達の最近接領域 = サポートがあればわかる・できる領域)で、学び・発達が起きるというわけです。

そして、ヴィゴツキーは、模倣(真似をする)ということが大切で、人は模倣しているうちにできるようになっていくのだと強調しました。

真似をすることは学びの過程でとても大切なのです。

だからこそ、具体的にやり方を教えるということは、何かを学ぶ上での最初の段階で、とても重要だということになります。

▼      ▼      ▼

最初は見よう見真似でやっていても、徐々に自分でできるようになっていきます。

わかってくると、ただ真似するのではなくて、自分ひとりでやってみたくなるのが、人間です。

少しすると、テイクオフ(離陸)しますから、安心してください。

でも、最初は、わかる人・できる人の具体的なサポートが必要なのです。


このことは、子どもの学びだけではなく、大人にも当てはまります

これまで料理をしていなかった家族に料理を教えたり、家事のやり方を教えたり、ということは、いきなり任せてもうまくいきません

こうやるんだということをうまく伝えて、それを模倣して体験できるようにします。

人は、言われたことではなく、自分の体験のなかで学んでいくのです。

真似できるように教えるということは、実際にやってみる体験を生み出していることになります。

教える人がすべきことは、単なる周辺の情報の提供ではなく、学び手の体験をつくり出すことなのです。

そういうわけで、何かを教えるときには、《まねぶことから》始められるように教える、ということが大切なのです。

手本を見せて、真似してもらい、どんどんできることを増やすサポートをして、みんなのできることを増やしていきましょう。

できることが増えると、可能性が広がりますよ。

まねぶことから

---------------


《まねぶことから》は、「ラーニング・パターン:創造的な学びのパターン・ランゲージ」に収録されている学びのコツです。

もともとは学び手側の学びコツなのですが、今回はこれを教え手側のコツとして紹介しました。

そんな経緯もあるので、学び手(子どもなど)に「《まねぶことから》始めるんだよ」と、この言葉を共有するとよいでしょう。

これまでは、「真似」(模倣)というのは、どちらかと言えば、悪いことだと教えられてきたと思います。

「人真似」とか、「模倣品」とか。

でも、真似することをポジティブに捉えて、まずは《まねぶことから》始めるということを共有すれば、どんどん真似るようになり、学ぶことにつながっていくでしょう。

型破り」も、まずは「型」を身につけなければ始まりません。

模倣は、人間の知的能力のなせる技です。

真似て学ぶ、「まねぶ」をどんどんしていきましょう。

なお、今回紹介したヴィゴツキーの概念・理論は、『クリエイティブ・ラーニング:創造社会の学びと教育』(井庭崇 編著)のなかで解説しています。

これからの学びと教育を考える上でのとても重要な考え方・実践事例が紹介されているので、よかったら、ぜひ読んでみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?