『蜜蜂と遠雷』に恋をした
フォロワーもすなる日記というものを我もしてみんとしてすなり。
今はおもいっきりおさけが入っています。飲んだのは……なんだろう?缶チューハイを数本。ロング缶の……マンゴーとかパイナップルとかそういうやつ。夏ですね~と言おうとしたけれどもうすぐ八月も終わりますね。夏じゃないですね~。いや夏だが。(書きながら三時間が経過してしまったのでもうおさけは抜けています)
?の後ろは一文字空けるとか三点リーダーは二個連ねるとか、この日記はそういうの気にせず書いていきます。三点リーダーに関してはもはや癖で二個にしちゃうけど。がんばって一個にしてみる。
映画。映画について。今日は一日映画をずーっと見てました。時間があったので。いや、ずーっとってほどでもないな。途中ごはんたべたりした。
三本。
『セラヴィ!』
『よこがお』
『蜜蜂と遠雷』
の三本でした。で、まあ、どれもすごくよかったんですが、特に『蜜蜂と遠雷』について、これすごくよかったので、これについて書きたい。ていうか、『春と修羅』がすごくよかったね。という話をしたいんです。全然関係ないですけど最近PCで「話」と打ち込むときに真っ先に「話し」が出てくるのすごく厭ですね。この変換してるとこ他人に見られたら死んでもいいな。
閑話休題。
って言葉、使いたくなりがち。(オタクあるある)
◆『蜜蜂と遠雷』とはなんぞや?
これは小説のカバーイラスト。たぶん。
『蜜蜂と遠雷』というのは、恩田陸氏の書いた小説のことです。恩田陸氏といえば、私が知ってるのでいえば『夜のピクニック』とか……『六番目の小夜子』とか……そこらへんを書いてる人でもありますね。
あらすじを簡単に言うと、あるピアノコンクールにおけるピアニストたちの感情を描いた音楽小説。といったところ。私は読んだことないですけれど。
読んだことないのになぜこの小説の話をするのか。それはひとえに、この小説の映画化作品を観たからです。あ、ちなみにこれより下はふつうに映画版のネタバレ書くので気をつけてくださいね。小説版とは内容ちょっと違うとおもう。
タイトルはそのまま、『蜜蜂と遠雷』ですね。
これは映画版のポスター。たぶん。
ひとりだけそっぽ向いているのが主人公
公式ホームページに行ったら、このポスターの中心部にデカく白文字でこう書いてあります。
『私はまだ、音楽の神様に愛されているだろうか?』
と。
そういう映画でございます。「時間」と「才能」についての映画です。
ピアノを題材にした作品は私も過去に摂取したことがあります。直近ですと『羊と鋼の森』『ピアノの森』など。こういうピアノものの作品って、だいたいなんか、「自然と調和する天才児」みたいな人が努力型の秀才からの嫉妬を浴びる、みたいな構図が多いんですが(わたし調べ)、『蜜蜂と遠雷』もおよそその公式に当てはまる作品だと思います。
およそ。
「およそ」という表現を使ったのは、つまりは「当てはまらない部分がある」ということです。
何が当てはまらないの?
はい。
この映画、
メイン登場人物がなんかみんなふわふわしている。
んですよ。
つまり、嫉妬したりされたり、そういうのが全然ない。個人間でのドロドロがほとんどなくって、なんか、みんないい奴らなんですよ。ポスターに映ってる四人なんか特にそう。左下の森崎ウィンなんか、いかにも腹に一物抱えてそうな顔しといてふつうに主人公の幼馴染で主人公応援しまくるし誰にも毒吐かないんですよ。四人で砂浜行ってはしゃいだりしてるし。ライバルじゃないのかよとか思うんですが、彼らの戦いはもうその次元にはないんですよね。ていうかそもそも全員天才だし。
と、まあ、個々のキャラクターや楽曲についての好きポイントを語ろうと思えば語りまくれるんですが、今回語りたいのはひとつだけ。
「高島明石」という男について。
これですよ。
◆高島明石って誰やねん
この人です。松坂桃李ですね。
「えっ!? このいかにもふつ~のおじさんっぽい人が自然派の天才なの!?! あ、きっと子どもピアノ教室とかでブイブイ指を鳴らして(ピアノですからね)新たな天才を送り出しまくっている元・天才がその重い腰を上げて再び表舞台へ……的なやつ!?!」
と、察しのよいみなさんは思ったでしょう。
違います。
この人は天才ではありません。
この写真はふつ~にただただ家族団らんのひとときを写し取っただけのやつであり、ピアノ教室でもなんでもありません。
この人はふつ~のサラリーマンであり、音大とかにも通ってません。コンクールの年齢制限ぎりぎり。岩手県からはるばるやってきた超弩級の田舎もんです。
そう。ポスターに映っている四人のうち、「天才ではない」のはこの人だけなんです。さっき「全員天才」と言いましたが、あれは嘘です。残念だったな。
「あ、そうか!」と勘のいいあなたは気づきます。
「田舎から出てきた冴えない青年がジャイアントキリングで天才たちをバッタバッタとなぎ倒す痛快シンデレラストーリーなんだ!」と。
違います。
この人はふつうに二次予選で敗退します。
「おいおい」とあなたは言うでしょう。
「予選落ちするような奴がなんでポスターに陣取ってんだ?よっぽどこの映画、まともなキャラクターがいねえんじゃねえか。あとの三人も大したことねえんじゃあねえの」と……。
違います。
高島明石は、超、スーパー、ウルトラ、めちゃめちゃ、重要人物なのです。
いや、どういうこっちゃ。
これを説明するには、作中に出てくる曲『春と修羅』について知る必要があります。
『春と修羅』……?
私と好みが近いみなさんなら、この言葉をどこかで聴いた覚えがあるでしょう。この日記の冒頭に書かれてるやつよりも、もっと前に……。いやURLとかじゃなくて…。
◆『春と修羅』、知ってる?
表紙と裏表紙。たぶん。
読めますかね。左。『春と修羅』というタイトルの下に……なんだこれ。いや私にも読めん。「心象スケッチ」……かな?まあそれはいいや。その下。著者名ですよ。こう書いてあります。
「宮沢賢治」
そう、『春と修羅』というのは、我らが敬愛するケンジ・ミヤザワの詩集のタイトルなのです。
もはや言うまでもないかとは思いますが、宮沢賢治というのは『銀河鉄道の夜』『やまなし』『雨ニモマケズ』などの数々の名作を残した方ですね。
私は三度の飯より『永訣の朝』が好き。(『永訣の朝』っていうのは『春と修羅』に収録されている詩です。最近だと「おらおらでひとりいぐも(しとりえぐも)」というフレーズが、これをタイトルとした小説が芥川賞を取って話題になりましたね。「あめゆじゅとてちてけんじゃ」も有名なフレーズ。私が一番好きなのは「この雪はどこを選ぼうにもあんまりどこもまっしろなのだ あんなおそろしいみだれた空からこのうつくしい雪がきたのだ」ってとこですね。美しさと恐ろしさ、暗さと眩しさが同居している――以下省略)
で、まあ、『春と修羅』。
みなさんは思いますね。「曲ではなくね?」と。
「詩じゃん」と。
違うんですよ。
『蜜蜂と遠雷』において、宮沢賢治の『春と修羅』をモチーフとした同名の曲が出てくる。と、こういうわけなんです。
ミツエン(これは『蜜蜂と遠雷』の略 急に略す)の『春と修羅』は、曲の構成として大きく前半と後半に分けられます。
前半は審査員の作成した楽譜。
そして後半は、ピアニストが自ら作曲する。
はい。後半。これが大事ですね。どう考えても。察しの良いオタクは、「あーね ここでそれぞれのキャラクターの個性が見えるんだね 言うなればキャラクターの深堀りパートみたいなものだ」と思うかもしれません。
その通りです。
そして、ここで、この曲において、我らが高島明石は火を噴くのです。
先ほど書きましたね。高島明石は岩手県からやってきた。そして宮沢賢治も同じく、岩手県の人なのです。
同じ大地から生まれた二人の孤独な魂は響き合い……
そしてひとつの旋律となり、結実する!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
急にテンションが上がることもありますよ。文字なんですから。
映画内演奏 抜粋
あのね。
端的に言うと、私は泣いてしまったんですよね。
なんだろうね。ここには――あ、待って、今ちょっと、あ、大丈夫。えー……
ここには――まぎれもなく『春と修羅』があった。
宮沢賢治の『春と修羅』が。
それがたまらなくうれしくて、そして私は高島明石に恋をしてしまったんですよね。
……………いや、恋っつっても、「好き好き大好き結婚しろ!!!!」みたいなことじゃなくて。なんだろう。夜、空を見上げて、お月さまが真っ白で大きくて綺麗だったら月に恋するじゃないですか。そういう感じ。
で、劇中に登場する天才二人も、この明石の演奏に恋をするんですよ。そしてたまんなくなっちゃって、少しぼけた音の鳴るピアノで、月光の下で連弾したりする。おい。解釈一致だな。おい。この映画、解釈一致なんだよ。恋ってそういうことだよな。あの連弾シーンは実質キスシーンだと私は思ってるけど、まあ、そういうことなんだよな。
で、はい。
つまり、何が言いたかったんだっけな。
『蜜蜂と遠雷』を見て明石に恋をしてほしいし……
それ以上に『春と修羅』を読んでほしい。
という話しでした。これはね、観ないと伝わらない。
ハルシュラ(これは『春と修羅』の略)もね、今なら青空文庫とかでも読めるからね。
読んでね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?