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TM NETWORK『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days -YONMARU-』:1984から2024に至る道、音に言葉に記したYONMARUの痕跡

TM NETWORK『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days -YONMARU-』は2024年4~5月のツアーの最終公演を収録した映像作品です。ライブは大きく分けて三部構成。「SELF CONTROL」で始まり、序盤はミディアム系の曲を中心に演奏しました。ほぼ完全版のCAROLを中盤に配置し、後半は現在進行形のエレクトロニック・サウンドを張り巡らせます。三人は「ELECTRIC PROPHET」を演奏してステージを去り、「intelligence Days」がエンドロールの役割を果たしてライブは終わりました。そしてCoexistence with...

メロディと哀愁を運ぶ歌に胸を打たれる。そうした場面がいくつもあったのがYONMARUの思い出です。CAROL関連の曲は何度も聴いたにもかかわらず、HAMMONDを重ねた壮大なサウンドと広い会場を彩る光のなかで聴く歌が新たな感動を呼びました。特に好きだったのが「A DAY IN THE GIRL’S LIFE」です。また、木根さんと小室さんが歌う「Carry on the Memories」では、とりわけ♪リズムに歌を乗せて♪や♪音を奏でて君を♪のメロディが胸に響きました。少し上がって、下るラインが好きです。ウツも含めて三人で録音してもらえないでしょうか。

キャリアを積み上げるにつれ、ウツのボーカルはバラードでの表現が美しくなっています。胸に沁みるバラードの「CONFESSION」は、DOUBLE-DECADEで聴いたときも深みを感じましたが、YONMARUではもっとエモーショナルで感動しました。奥行きが見えたというべきでしょうか。音を伸ばすところの緩やかな上下が心地よかった。♪会えないぶんだけ近くなる♪や、♪今度向かいあったら ほほえむだけでわかる気がする♪など、メロディと歌がシナジーを起こした部分は枚挙に暇がありません。

長い曲のためか、最近はセット・リストに入っても抜粋して歌っていた「ELECTRIC PROPHET」は、最後のサビのリフレインを除いて演奏されました。語りかけるような歌が印象に残る曲です。いつになく叙情性が高まったボーカルや音のなか、歌声が運ぶメロディの優しさに身を任せました。印象に残ったのは、ウツが一際強く、感情を露わにするかのように♪今夜のような夢を♪の部分を歌ったシーンです。その瞬間だけ、会場の空気が変わったような気さえしました。

止まらない音の追求。日進月歩で変わるエレクトロニック・サウンドがYONMARUでも随所に注入されます。例えばCAROLセクションを締めくくった「JUST ONE VICTORY」。基本的には明るい曲調のロック・サウンドですが、イントロに加わった音や間奏のエレクトロニック・サウンドは、ややダークな印象を与えるものでした。例えば「Get Wild Continual」。オリジナルより長い間奏やエンディングに埋め込んだエレクトロニック・サウンドは、新たな音を得て変わり続けた曲が、相変わらず変化の途上にあることを示しました。

当初は、2023年のツアーで使った「Avant」をCAROLの後に入れる予定でしたが、そのアイディアをリハーサルの途中で捨て、新しいインストゥルメンタルを小室さんが書きおろしました。そうした経緯で生まれたのが「Coexistence」です。2022年のツアーから始まったリズムの強調を踏襲して、前半と後半で趣きの変わるピアノとシンセのリフを軸にしたエレクトロニック・ミュージック。後半には阿部薫のドラムと北島健二のギターによる技巧的なプレイが重なり、熱くてクールなROCK AND EDMが顕現しました。これもスタジオ・レコーディングで聴きたい曲です。

七色の光が横に縦に斜めにステージを彩り、音も光を放つ。「RAINBOW RAINBOW」のEDMアプローチは2014年に実現したものの、10年前とは異なるサウンドで新たな姿を披露します。YONMARUではスネアを効かせた軽快なリズムで、ディスコ・ソング的なノリの良さを感じました。シンセサイザーのリフは40年前から存在する旋律ですが、今も通用することを示します。1984年からEDMをやっていた――かつてデビュー・アルバムを振り返ったときの小室さんの言葉は、決して過言ではありません。この曲のようにエレクトロニック・ミュージックとして風化しないフレーズや構成を備えていたからです。

「ACCIDENT」のサウンドは、大胆な変化を遂げた前のツアーを踏襲しました。四分音符の四連打が聴き手を貫き、メロディアスなシンセサイザー・サウンドとパーカッシブなリズムが共存する世界に引きずり込みます。絶え間ない変容という宿命を背負ったTM NETWORKの、2024年における痕跡のひとつです。歌以外のドレスアップが僕らの印象を刷新して、元のアレンジを知っているほどに驚き、圧倒されます。一方でオリジナルを知らない人が聴いたら、果たして1985年の曲だと思うでしょうか。それほどにアグレッシブな変わりようを見せた曲です。

2021年に再起動したTM NETWORKの物語はYONMARUで終わりを迎えました――否、迎えたものと思っていました。潜伏していた我々のもとに、2024年の暮れに一夜限りのライブを開くという情報が伝達されました。本作のリリースと同時に予告されたライブのタイトルは〈TM NETWORK 2024 intelligence Days FANKS inside〉です。物語はもう少し続いて、新しいページに音を刻みます。


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