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tk-trap『tk-trap produced by tetsuya komuro cozy kubo』:TKプロデュース盛期の隙間に仕掛けたプログレのTRAP

1996年1月、「ORACLE OPEN WORLD 1996」というイベントでtk-trapのコンサートが開催されました。tk-trapはグループというより単発の企画であり、プロデューサーは小室哲哉と「小室哲哉の一番弟子」こと久保こーじです。後日、音源と映像が『tk-trap produced by tetsuya komuro cozy kubo』としてリリースされました。それから25年。リマスターしたCDとBlu-ray化した映像をひとつにまとめた『tk-trap produced by tetsuya komuro cozy kubo RE:2021』がリリースされました。

コンサートでは、ふたりのキーボードやギターに、ベース、パーカッション、ドラム(2人)、ギター、サックス、コーラス(3人)が加わり、半数を海外のミュージシャンが占めました。コーラス隊は女性1人と男性2人で構成され、曲によってリードとバックグラウンドが入れ替わります。この総勢11人のメンバーでオリジナルのインストゥルメンタルや、TM NETWORK、EUROGROOVE、TKソロのカバーを披露しました。

『tk-trap produced by tetsuya komuro cozy kubo』を初めて聴いたとき、輸入盤を聴いているかのような錯覚に陥りました。自分にとって馴染み深いTM NETWORの曲が演奏されていたにもかかわらず。その大きな理由は、歌詞が英語に書き換えられたことです。言語が異なるだけでも印象は変わりますが、譜割の変化やメロディの部分的な変化が拍車をかけます。それらをコーラス隊のソウルフルな歌声が届けることで、オリジナルの印象を刷新する素晴らしいカバーが仕上がりました。

tk-trapの音や演出はプログレッシブ・ロック(プログレ)を強く意識していました。バンドで組み立てる緻密な音、抽象性の高い映像、バリライトによる光の表現。『tk-trap produced by tetsuya komuro cozy kubo RE:2021』のブックレットに掲載された久保さんのインタビューによると、プログレのなかでもPink Floydをイメージしていたそうな。プログレをやることは「小室哲哉といえばダンス・ミュージック」という予定調和に対する「裏切り」であり、そこからtk-trapと命名されたとのことです。

TM NETWORKが最初のDECADEで残した作品のうち、プログレの影響を感じるアルバムが『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』です。tk-trapでは、メインの4曲を組曲形式でまとめ、「CAROL (Part 1)」「CAROL (Part 2)」として披露しました。また、アルバム『EXPO』に収録され、やはりプログレを標榜した「Think Of Earth」もセット・リストに加わっています。いずれの曲も、tk-trapを通して、もともと抱いていたプログレのイメージにぐっと近づいたのではないでしょうか。

プログレの色が濃くなったのは、小室さんの関心が一段と強まったためです。tk-trapの機材を準備するにあたり、小室さんはRick Wakemanのキーボードの種類や配置を参考にしました(『TM NETWORK TOUR “Major Turn-Round” THIRD IMPRESSION』「The secret story」より)。このときMellotronにも言及したものの、当時は入手困難だったため諦めたとのことです。小室さんが実際にMellotronを弾いたのは2000~2001年ですが、tk-trapでMellotronが使われていたら、どのようなサウンドになっていたのでしょうか。想像は止まりません。

tk-trapでは、この企画のために書かれた「ORACLE COMMUNICATOINS」、「TRANSPORTATION to the future」、「VEHICLE 2001」などのインストゥルメンタルも魅力的です。バンドの演奏からはプログレに加え、ジャズやファンクの要素が感じられ、ミュージシャンたちが描く音の世界に引き込まれます。時間を戻せるのなら会場で聴いてみたいものです。

そのなかでも特に好きな曲が、前半と後半の雰囲気が大きく変わる「TRANSPORTATION to the future」です。ゆるやかに音が絡み合う前半は、後半のための長いイントロのようにも思えます。しばらくしてから鳴り響く規則的なドラムの音は、雰囲気が変わる予告のようです。時が満ちて曲の空気が変わると、音の密度は一気に高まります。ギターは渋く、ベースは艶っぽく、アルトは気持ちを昂らせるようにダイナミックに響きます。

コンサートの最後を「GIA CORM FILLIPPO DIA (DEVIL’S CARNIVAL)」が飾ります。『CAROL -A DAY IN A GIRL’S LIFE 1991-』に収録され、パーカッションを効かせた陽気なサウンドが特徴的な曲です。tk-trapではジャズというべきかファンクというべきか、オリジナルよりもさらに躍動する音を堪能できます。「ミュージシャンとしての小室哲哉」にフォーカスしたtk-trapのなかでも、それを強く感じたのがこの曲です。Roland JD-800やHammond C-3、そしてピアノを弾く姿が特に印象に残りました。


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