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quasimode「Catch The Fact」:空から降り注ぐような美しい旋律、心を絡め取る鮮やかなアンサンブル

quasimode「Catch The Fact」は、彼らが2006年にインディーズで発表したデビュー・アルバム『oneself - LIKENESS』の最初と最後に収録されている曲です。メロディは同じですが、それぞれ異なる演奏で表現されています。アルバムに収録されたバージョンをイントロとエンディングに据え、その間に新しい展開を加えて全体をアレンジしなおしたのが「Catch The Fact -Full Length Version-」です。

このバージョンは「Finger Tip」というE.P.のアナログ盤に収録されました。僕がフル・レングスの存在を知ったときにはアナログ盤を手に入れることは不可能でしたが、その代わりにiTunes Storeでダウンロードできました。そして長い間、僕のiTunesの再生回数ランキングのトップをキープし続けました。アナログ盤であれば文字どおり擦り切れていたことでしょう。飽きもせず繰り返して聴けるのは、聴くたびに新鮮な気持ちで向き合えるからです。記録された音であっても、記憶に刻まれる音は刷新されていきます。

最初に「Catch The Fact -Full Length Version-」を聴いて思ったのは、当時の記録に従ってそのまま書くと「ピアノの音ってこんなに美しかったんだ!」ということです。ピアノが流麗な旋律を生み出し、耳どころか意識のすべてがピアノの音に釘付けになります。誰もいない小さな部屋で壁にかけられた名画と向き合う。そんな場面を思い浮かべました。

ピアノを軸にして曲全体を味わっていると、前面に押し出される音も、その向こう側に見え隠れする音も、すべてが美しいと思えてきました。ピアノに導かれるように、パーカッション、アコースティック・ベース、ドラム、そしてホーンが加わり、音を重ねていく。ピアノの音を中心にして、すべての音が楽しげに、時としてスリリングに舞います。

2012年に「Catch The Fact」は新しい姿を見せます。結成10周年を記念するベスト盤に「Catch The Fact -2012 Full Length Version-」が収録されました。曲の形はオリジナルを踏襲していますが、ソロのフレーズを変えるなど、新しく録音されたバージョンです。リリース当時のライブで演奏され、「Catch The Fact」を生で聴けたことにとても感動したことを覚えています。あまりにも感動が大きいために、ライブで「Catch The Fact」を聴いているという実感が薄れていく気がしました。

美しい旋律に触れると、身体が踊ることを忘れてしまう。quasimodeが掲げたのは「ジャズで踊る」であり、そのテーマをもちろん「Catch The Fact」も体現しています。それでもなおこの曲には、踊ることとは次元の異なるものを感じます。それが「美しい」という言葉に帰結するのです。


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