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印象的な音楽を記録して記憶に刻みます。
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記事一覧

Yes「Heart Of The Sunrise」:個性の衝突と企みの交錯から生まれたスリリングなアンサンブル

Yesの「Heart Of The Sunrise」は、Rick Wakemanが加わった直後のスタジオ・アルバム『Fragile』に収録されています。幕開きの役を担った「Roundabout」とともにアルバムを象徴する曲であり、一方でこちらは終幕を担当しました。この曲の最大の特徴は、なんといってもイントロの頭をはじめとして随所に登場するフレーズでしょう。高速かつ強力なスネアとベースとギター、その間を埋めるHAMMOND。いくつものセグメントをつなぎ、10分以上ある曲の軸とな

Chihiro Yamanaka「Carry On」:三つの点で描く音楽世界、ピアノを弾き続ける意志

2024年10月、山中千尋がアルバム『Carry On』をリリースしました。三曲のオリジナルを新たに制作し、Bud Powell、Henry Mancini、坂本龍一の曲をカバーした作品です。表題曲の「Carry On」はオリジナル曲のひとつであり、アルバムの幕を切って落とす曲でもあります。録音にはベースのYoshi Waki、ドラムのRussell Carterが参加しました。 メロディを紡ぐピアノの音は、比較的軽めのタッチのなかに太くて強い芯を感じます。軽やかにステップ

Tetsuya Komuro「Traffic Jam」:渋滞という現実から切り離され、潜り込むTKジャズ・ワールド

アルバム『JAZZY TOKEN』は、小室哲哉が正面切ってジャズにアプローチした珍しい作品です。アルバムの開幕を飾る曲は「Traffic Jam」といい、ピアノとドラムとベースで軽快な音を積み上げ、キャッチーなテーマ・メロディの魅力を伝えます。交通渋滞という曲名とは裏腹に、リズミカルに響く音が僕らを快適な音の世界に導くジャズ・ソングです。 音の数が絞られているためか、メロディの良さをダイレクトに味わえます。冒頭からリフレインするピアノの音に引き込まれ、ずっと聴いていたいと何

T.UTU「Angel」:きらめく音を身にまとい、天使を誘惑するボーカリスト

宇都宮隆がT.UTUとして1993年にリリースした三枚目のシングルは、タイトルを「Angel」といいます。二枚目のアルバム『Water Dance』からシングル・カットされた唯一の曲です。盟友であるFENCE OF DEFENSEの西村麻聡が曲を書きました。 色気のあるファンク系ポップ・ロックという感じでしょうか。煌びやかなシーケンサー、メロディアスなギターのリフ、なめらかに流れるベースが曲を貫き、明るくて艶のある音の重なりを堪能できます。加えて大きなインパクトを残すのがギ

Led Zeppelin「Nobody’s Fault But Mine」:爆音吹き荒れるロック・ソング、音を断ち切る無音の存在感

Led Zeppelinのスタジオ・アルバム『Presence』が世に出たのは1976年。無骨なバンド・サウンドを突き詰めたロック・アルバムです。このなかで「Nobody’s Fault But Mine」が放つ雄々しさ、荒々しさ、猛々しさは、アルバムを代表する「Achilles Last Stand」に決して劣ることはありません。ワイルドなギター・サウンドと奔放なボーカル表現が絡み合い、重みのあるロック・ソングが生まれました。 度々訪れる無音の瞬間が、それまでとの落差を生

LINKIN PARK「Heavy Is The Crown」:MikeとEmilyの新しいタッグで表現するLPスタイルのラップ・ロック

新生LINKIN PARKの発表と同時に新曲「The Emptiness Machine」の配信が始まったのは記憶に新しいところです。11月にリリースを予定しているスタジオ・アルバム『From Zero』から最初にシングル・カットされた曲でもあります。そして、一ヶ月も経たずに次の曲が世に出ました。タイトルは「Heavy Is The Crown」。 Mike ShinodaのラップとEmily Armstrongのボーカルが響くラップ・ロックのスタイル。LINKIN PAR

くるり「STILL LOVE HER」:リスペクトを込めた原曲の解体、ギフトを添えた独自の再解釈

新たな生命とリスペクトを込め、40周年のCELEBRATIONで包んだギフト。TM NETWORKのカバー・ソング集『TM NETWORK TRIBUTE ALBUM -40th CELEBRATION-』に、くるりによる「STILL LOVE HER ~失われた風景~」のカバーが収録されました。 もともとファンであり、TM NETWORKの解像度が高いくるり。特に岸田繁のファン愛は有名です。今回の企画に際して、岸田繁は「TM NETWORKからはその進取性と、あらゆる辺境

TM NETWORK『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days -YONMARU-』:1984から2024に至る道、音に言葉に記したYONMARUの痕跡

TM NETWORKの『TM NETWORK 40th FANKS intelligence Days -YONMARU-』は2024年4~5月のツアーの最終公演を収録した映像作品です。ライブは大きく分けて三部構成。「SELF CONTROL」で始まり、序盤はミディアム系の曲を中心に演奏しました。ほぼ完全版のCAROLを中盤に配置し、後半は現在進行形のエレクトロニック・サウンドを張り巡らせます。三人は「ELECTRIC PROPHET」を演奏してステージを去り、「intell

Zedd「Sona [feat. the olllam]」:美しく流れる旋律に身を任せ、多幸感あふれる音に酔う

Zeddの三枚目のアルバム『Telos』には、インストゥルメンタルが一曲だけ収録されています。タイトルは「Sona」です。この曲には、the olllamがソングライティングと演奏で参加しています。アイルランドの管楽器を操るグループであり、“olllam” とは、古いアイルランド語で “a grand master of a skill” を意味する言葉に由来するそうです。 ロー・ホイッスルとイリアン・パイプスのオーガニックな音が濃厚な哀愁を運びます。しかしそれは吹けば飛ぶ

quasimode「Give It Up Turn It Loose」:音を奏で歌を乗せて風は街を吹き抜ける

ポップな方向にシフトしていたquasimodeのジャズ・サウンドに、ソウル・ミュージックのエッセンスを注入するとどうなるのか。答えは2012年のアルバム『SOUL COOKIN’』に記録されています。quasimodeらしさを消さずにソウル・ミュージックの良さを表現する――そうしたアプローチの痕跡がよく見えるのが、アルバムで唯一のカバー曲である「Give It Up Turn It Loose」ではないでしょうか。オリジナルは1992年にEn Vogueが発表した「Give

Ado「クラクラ」:歌と音が結託して聴く人をワンダーランドに閉じ込める

アニメ『SPY×FAMILY』の劇伴はジャズやファンクの要素が盛り込まれ、クールな雰囲気と陽気なコメディの落差を音楽でも表現します。加えて主題歌も素晴らしく、いずれもカラーは違えど物語の世界にマッチしています。特筆すべきは、Adoが歌うSeason 2オープニング・テーマの「クラクラ」です。アニメ映像のインパクトと相俟ってハートを撃ち抜かれました。 くるくると変わるメロディに合わせ、Adoのボーカルも表情を変えます。斜に構えたクールな歌声。熱を帯びてストレートに響く歌声。フ

LINKIN PARK「The Emptiness Machine」:バンドの新章を開き、一気にギアを上げるロック・ソング

LINKIN PARK再始動。2024年9月に、新しいメンバーを加えたバンドが再びステージに立ち、ライブストリームでヒット・ソングの数々を披露しました。翌週からワールド・ツアーが始まり、11月には新しいスタジオ・アルバム『From Zero』をリリースすることもアナウンスされました。 ライブストリームの冒頭で演奏された新曲「The Emptiness Machine」が、新生LINKIN PARKにおけるイグニッション・キーの役割を担います。エンジンをかけるに留まらず、ギア

AVICII「Long Road To Hell」:スリリングな音とパワフルな歌声が聴き手のハートを射抜く

AVICIIが2013年にリリースしたスタジオ・アルバム『True』には、オリジナル版の他に、未収録曲を追加したボーナス・エディションがあります。後者に追加で収録された曲のひとつが「Long Road To Hell」です。矢のように聴き手に突き刺さる音――存在感あふれるピアノのリフが曲を牽引します。高揚感と同時にスリリングな気持ちが味わえるリフです。そこにボーカルが加わると曲にさらなる厚みが出て、音と歌のコラボレーションが聴き手を襲います。 パワフルなボーカルは音の勢いに

TM NETWORK『Gift for Fanks』:TM NETWORKのキャリア初期を支えた曲、躍進への道をたどるファースト・ベスト・アルバム

1987年にTM NETWORKが初めてベスト・アルバムをリリースしました。タイトルは『Gift for Fanks』です。音楽的コンセプトとして立ち上げたFANKSというワードは、いつしかファンを表わす名称にもなりました。「GET WILD」のヒットに至るまで応援してくれたFANKS、そして新たに加わったFANKSに向けたギフト――それが本作です。 『Gift for Fanks』は当時の最新シングル「GET WILD」で幕を開けます。収録曲や曲順を決めたのはレコード会社