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市川準 トニー滝谷

毎年恒例目黒シネマでの市川準特集今年で10回目。回を重ねるごとに歳を重ねるこどに市川作品がどんどん身体に馴染んでくる。特集最後に上映されたトニー滝谷はここへ来て人生ベストムービーとなった。

モノクロに近い色味の画が左から右へページを捲るように流れていく。高台に建てられた眺めの良い吹き抜けの簡素なセットに緩やかな風が吹く。イッセー尾形と宮沢りえの一人二役という演劇的な省略とイマジネーション。胸を締め付けられる坂本龍一のピアノの一音一音。高熱の中録音された西島秀俊の無機質な語り。

文章のみで完結する村上春樹の圧倒的な世界観に対峙するため、奇跡にも近い仕掛けがフィルムに丹念に焼き付けられていた。

ドラマチックをできるだけ排除し孤独な人々に寄り添い静かにそっと語り継ぐ。市川準の誕生日にこの作品を観れたことが一番のドラマチックだったかもしれない。