おれ急に読書感想文が書きたいって話①

 きゅうに「感想文」が書きたくなって(他薦というPR側面がある「レビュー」ではなくて)、ツイッターで募集しました。ご協力ありがとうございました。できればね、ツイートに<つづく>とある先の、条件は読んでほしかったな~と思ったり、まあ別にどうでもいいんですけどね。たったツイート2個くらい目を通してくれやと思いつつチラ見して面白い作品だったら「悔しい、でも読んじゃうビクンビクン」つって読むし…….

 まあでもさすがに条件つけちゃったてまえ、満たしていない作品に感想文書くのはちゃんとツイート読んでくれた人に申し訳ないので、読むだけにします。気づいて後追いでもいいから好きな色送ってくれたらイイナ~。

 念のためですが、「感想文」なので、買った本に対する感想みたいな感じで書くつもりです。作者さんの意にそわない内容になるかもしれませんが、ご容赦いただきたい。作者さんのための文章ではなく、私のための文章です。

【1】 飛鳥 休暇「魔王の棲家~天才魔術師と老いた英雄達の物語~」 

あらすじ:自身を天才と称して憚らない尊大な魔術師・セイルが、「魔王の棲家」なる地での任務を命じられる。漸く才能が認められたと勇んで向かったセイルだったが、なんと「魔王の棲家」とは、歴史に名を残す伝説の魔術師たちの、老人ホームだった……。

 約8万字で第1部がきれいに完結している作品。プロローグを読んだときには、正直、正直ね、よくある「過去に大惨事を起こした呪われた血=魔王の娘とかなんとかと、なんかの才能がある主人公がなんやかんやあってくっつくヤツやろ? はーんおれわかっちゃったもんね」って思ったね。すまんかった。呪われた娘と清廉潔白な主人公がなんやかんやあってくっつく異世界ファンタジー、みんなも、そして私も大好きだからさあ。
 この作品の舞台は「老人ホーム」。そうです、忘れてたけど、どんな英雄譚の主人公も神秘的な王女も、人間ならみんな年を取る。尊敬を集めた魔術師も年をとればボケる。漏らす。いまだかつてそんな切り口のファンタジー読んだことないよ、だって、若さゆえの衝動と葛藤を乗り越えて成長していく美形の主人公やそのなかまたちのきらきらしい物語はあっても、その60年後、って、なんか悲しいじゃないか。
 もちろん、主題は介護でもなければ認知症との向き合い方でもない、傲岸不遜の主人公が予想外の壁(例えば、漏らしてキレてるバカつよババア)にブチ当たりながら、自分の魔術師としての、人間としての在り方を見つけていくこと。そして、読んでいる私と同じく、どんなにスゴかった人びとも、そして自分も老いていくのだということを、直視すること。ある意味での諦めと、だから"今"を燃やせと鼓舞する救いの物語。そして、自身の生きた証や生き方や言葉が、「次」にきちんと引き継がれていくことが丁寧に示唆されていて、ああ、よかった、と思う。現実にこんな美しく整った継承の儀式はなかなかないけれど、ないからこそ、創作でそれを見て救われた気持ちになるのだ。

 そして何が幸せって、「第一部完結」だから続きがあるみたいなのよね~。独居房に幽閉された帝王の血筋の男デュランの活躍もあるんでしょ?しかもホニャホニャのホニャホニャだったりしてさ、そんな麻婆チャーハン大盛ネギだくみたいなキャラクターどうやっても第一部で完食できるわけないでしょ?おれ知ってるから。

 何はともかく本当に面白かった。電撃大賞の三次選考まで進んだ作品とあとで知ってうなずいたもの。読みやすさがレベル違いで、「コレ本当に8万字もある?」ってくらい、一瞬で読めたので、この軽やかな筆致はぜひ盗みたいものと思いました。盗めるもんならな~。(おわり)


【2】サンダルウッド「ボールの行方」  

あらすじ:中学受験を間近に控えた主人公・池下くん。快活で調子のいい友人と、愛嬌のある幼馴染の女の子、やなんかに囲まれた小学校生活もあとわずか。勉強も順調、4月から新しい環境で頑張るぞ!……と思っているんだけど、……ぼくが本当に求めるものって何なんだっけ……?

 こまっしゃくれたガキんちょが、わかったような気持ちになって結論を後回しにする話。なんだ、「今に夢中になってるから、アイツらが好きなのかも……」って。かわいくない12歳だ。どの高さからの言いぐさだ。そして、たまに挟まれる、「~~~なんだけどね。」という急にこっちを向いて語りかけるメタっぽいセリフが、なおさら池下くんの小生意気な印象を強調する。うまい……。文芸のローティーンの子ってこういう子だよね。わかる。江國香織も山田詠美も森絵都も、なぜかローティーンを書こうとすると小生意気になるもの。もしかして、文芸をたしなもうとする人間って、そういう子どもだった割合が高いのかな? だから子どもを描くとついそういう子どもになっちゃうのかな? と思ったりした。なお、私はそういう子どもだった。こざかしキッズ。わかったような口ばっかり利いてな。今目の前にいたら、ぶってやるところだ。

 サンダルウッドさんの作品は好きで他作品もいくつか読んでいるんだけれども、どれも「テンポがいい」とか、「スルスルよめる」たぐいの小説ではない。圧倒的にラノベではない。例えば、本を返却する描写。

 図書室に入り、借りていた本二冊と、長方形の貸出カードをカウンターに出す。橘さんが自身のリストにチェックをしたあと、貸出カードの“返却欄”のところにスタンプをふたつ押した。

(第3話「こうばしい場所」)

 ともすれば読者に脳内補完させてもいいようなところも、丁寧に描写する。だから、こちらも丁寧に読む。
 一方、描写がここまで丁寧で詳細なのに、人物にいまひとつ現実味がないのも、文芸っぽいな、と思った。江國香織の一人称小説に出てくる人間たち、のきなみぜったい実在しないじゃないですか。そういう感じ。
 ちなみに「人物描写にリアリティがない」ってdisみたいだけど、全然そういうつもりはないです。リアリティがあればいいってもんじゃない。なぜなら、この物語は一人称小説なので。こまっしゃくれた少年・池下くんの目――「こまっしゃくれフィルター」を通しているので。12歳にしてちょっと高みからモノを見てる少年が、クラスメイトや幼馴染について「ぼくのセカイのなかで彼らをどういう登場人物にしたいか」と再構築して吐き出したものなので。だからというか、唯一、池下くんの「こまっしゃくれフィルター」から外れている「謎の男」だけ、ものっすごくリアリティがある。現実に存在するかどうかはともかく、異常に生き生きとしている。その描写のギャップが、さすが、技巧派だなあ……と思った次第なのでした。(おわり)


第2回はこちら。


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