灯火が立った
今日は電車に乗って知り合いのいる町へ。また行くね、と言いながら半年ぶりくらいの訪問だ。
電車の窓から溢れそうなくらい海が見える。海岸を見てみるとさざ波ひとつ立たずに凪いでいる。わたしのいちばん好きな、凪の海。雲ひとつない空。静かな情景。
久しぶりに会ったら、今日の海がとても凪いでいて美しいことを教えてあげよう。
…と思ったのだが。そんな話をすっかり忘れてしまっていたことに、帰りの電車で気づく。
とても楽しかった。心に取り憑いていた重苦しい膜が少し薄くなったような気がする。
知り合いは小さなお店を経営している。その場所には、色々な人が集まる。
その小さなドアを開けると、店内は大賑わい。出直した方がいいかなと思っていると、いつものあの人が久しぶりとわたしに挨拶をした。
たまたま来ていた他のお客さんとは初対面だったけれど、その人も交えて(というかわたしが交じって)たくさんの話をした。
この社会についての話だ。真っ暗闇へと突き進む、崩壊しかけたわたしたちの世界についての話。
こんなに話が通じたのは初めてで、心から嬉しかった。「ここに来るお客さんのほとんどは、似たような考えの人だよ」と言われた。
会社も、友達も、家族も、文章を書くことで知り合った人たちも、まだ知り合ったことのない人たちも、全部大事だ。
でも、ある意味ではわたしは孤独。
その孤独が、闇へと引っ張られないように、これからはこの人たちとも会おう、と思った。
ひとりぼっちだと感じていた心が少しほぐれた。荒野みたいだったわたしの世界に、ひとつの灯火が立った。
闇へ引き摺られないように、光へと手を伸ばして生きていく。
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