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ドラッグスター1号2号

ドラッグスターというアメリカンなくせに日本製のバイクがあります。
それに、どうしても乗りたい時期がありました。
本当ならハーレーダビッドソンに跨りたかったのですけど、大型免許にビビっていた私は、国産の中型免許で跨がれる割とお手軽な方のバイクに、これならいけるかも!と恋をしたのでした。
人で言うなら、このイケメンは無理そうだけど、ワンランク落としたこっちならいけるか、的な考えです。

学生だった私は2ヶ月でバイト三つ掛け持ちし、中型免許の教習所に通いながら頭金の40万円を貯めて、憧れのドラッグスター400を追いかけたのでした。

純正では嫌で、とにかくカスタムに憧れました。
カスタムするならスティードというバイクの方が選べるパーツも多く、お勧めされたのですが、なんといってもドラッグスターって名前が素敵すぎて、そちらに見向きもしませんでした。
ドラ乗ってるって、言いたかった。
ドラって、言いたかったのです。
そしてアメリカンといえば、音です。
ドッドッドって音が、もうたまらなくおへその中を刺激するので、私はそれに逆らえなかった。
ドッドッドッって振動うけながら、あの大きな機体に跨りたくて跨りたくて、どうしようもなかったのです。

そして念願の、ドラ入手。
嬉しくて嬉しくて、我慢できなかった。
飲み物買いに行くのにも、1時間かけて遠方に出かける。タバコを買いに行くのにも、奈良から和歌山まで走りました。100キロあったんじゃないでしょうか。

そして1ヶ月ほど経ったある日、ドカンとそれはやってきました。
気がつくと、救急車のなかで、体が動きません。
左腕骨折、全身打撲、顔面打撲で、全治1ヶ月とのこと。
事故の記憶が、全くない。
あるのは白いトラックの後ろ姿と、広い光が見えてフワッとなったそれだけ。
これがあの、フラッシュバックというやつです。

お顔がボコボコになってしまったし、怪我自体も大変だったのですが、何よりドラが廃車になってしまったのが一番悔しくて悔しくて仕方ありませんでした。
一番恋焦がれた時期に、わずか1ヶ月でのお別れ、こんなもの心が納得するわけない。

悔しくて仕方なかったリハビリの3ヶ月がすぎ、保険の力でまた私は同じドラを購入しました。
なのですが、今回は何か違う。
恋焦がれていたドラのはずなのに、全く盛り上がらない。
跨っても、何か雑さを感じて、楽しくないのです。
自分で努力して手に入れた前のドラは、これじゃない。
私は、物そのものではなく、その情熱にまたがりたかった。
そしてそれは、私の心の中から、たった1ヶ月できえさってしまったのだと気が付いた時、私はとても悲しい気持ちになりました。

そして、二代目のドラにさっさと愛想をつかせ、3ヶ月で売り放ってしまったのでした。

こうして終わりを遂げた僅かなバイク生活、だけどとても素敵な時間でした。
あの時バイクに恋しなかった人生なんて考えられない、とてもとても素敵な時間でした。

事故の時の傷跡は、月日が経った今でも左肘上にしっかりと残っております。
とても大切な、愛しい愛しい傷跡です。

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