Rの軌跡 第八話「そして幕は開かれた」
音響?何から手を付けたらいいの?
困ったときは我らのバイブル、そう、
バンやろ!
正式名称「バンドやろうぜ」である。文化祭でライブをやるなら音響が必要だろうというメンバー。一体何をどうすればいいのか全く知識がなかった。そこでバイブルを紐解くと、出てくる出てくる。音響(広告)の山である。
僕:これ全部準備せなあかんのか?
メンバー:機材はレンタルできるみたいやで。
僕:いや借りても使い方とか分からへんやろ。
メンバー:オペレーターも連宅出来るみたいやで。
僕:いったいいくらかかるんや・・・
雑誌をのぞき込むメンバー。メインスピーカー、24chミキサー、ドラムセット、ドラム用のマイク、アンプ用マイク、ボーカル用マイク、、、枚挙にいとまがない。もちろん額面は万単位。
僕:こ、これは、、
文化祭の許可を得て盛り上がっていた空気が一気に萎んでいった。「バンドやるには金かかる」渡辺美里(恋するパンクス)も言ってたな。
だがこんなことでは挫けている場合ではない。お金はないのだ(えっへん)音響を整えるというのは無理な話なのである。今持っている機材で何とかするしかない。幸いドラムセットは手に入れていた。ギターもベースもアンプはある(ちっちゃいけど)ボーカルマイク?メインスピーカー?体育館に最初からあるじゃないか!
今から思えばめちゃくちゃな音響。あのだだっ広い体育館で生音のドラム、十数ワットのギターアンプとベースアンプ、ボーカルは体育館のスピーカーから聴こえてくる。ハニワ顔の観客が目に浮かぶ。
しかし、そんなものは演奏力でカバー。とにかく練習だ!今まで以上に練習に熱が入る。MC、曲順、コール&レスポンス、自分たちで思いつく限りの想定をした。そして文化祭当日。
知り合いに車を出してもらって機材を運び込む。だだっ広いステージとアリーナ(体育館です)ここが俺たちのファーストステージなのだ(体育館だけど)
機材を並べてもスッカスカである。手持無沙汰である。広々なのである。
アリーナ(体育館)には椅子が並べられ、周囲にはクラスごとの作品が展示されている。数時間後、人生初のライブが始まろうとしている。
小学5年生の夏。僕は都心の小学校から地方の小学校へ転校した。
色々な理由があって新しい学校になじめなかった。いじめもあった。いじめられていたのは僕だが僕は被害者ではなかった。原因は自分にあった。うまくやろうとした。自分ではない何かが見えない何かを支配しようとしていた。子供はそういった空気を敏感に感じる。
6年生の2学期。僕は行動を起こした。学校に行くふりをして家を出る。共働きの両親が仕事に出かけた後家に戻る。夕方、母が帰ってくる頃に何食わぬ顔で学校に行った演技をする。数日後、学校から電話が入って事態は明るみになる。
「イキたくない」
「人間のいないところに行きたい」
僕は両親にそんなことを訴えた。どうしていいか分からない母。うちの子に限ってと思う父。人数の少ない中学校を進めてくる担任。誰も何も分かっていなかった。親も教師も所詮は人の子。分かるわけない。僕が何も伝えていないからだ。
それから半年間引きこもった。
テレビに映るミュージシャンが何よりもキラキラしていた。TMネットワーク、渡辺美里、リンドバーグ、BOΦWY、ZIGGY、JUN SKY WALKER(S)、BOOM、ジッタリンジン、ユニコーン(ちょっと時代がごちゃごちゃ)どれも神様みたいな存在で、自分がそこに肩を並べ、音楽番組で「いやー昔から憧れてて」なんてことを言っている。そんなことばかり考えていた。
卒業式だけは行ってこい。父はそう言った。
ライブ開始時刻。先生たちが自分のクラスの生徒を率いて体育館に入ってくる。自由参加じゃないの?なぜ強制w。まあいい。僕たちは初ライブにして観客400人以上を動員してしまうスーパーバンドになったわけだ。
出囃子のSEなんてない。近所を歩いている野良猫のようにテクテクと舞台袖から出てくる。楽器を準備する。ちょこっと音なんか出したりして、ちょこっとみんなが知っているフレーズなんか弾いたりする。ザワつく同級生たち。脳内にアドレナリンが出るのが分かる。
そして、ドラムのカウントでライブは始まった。
普通の生徒も、不良も、優等生も、みんな一つになっているように思える。知らない人も、知っている人もみんな楽しそうだった。いつもは腕を組んで難しい顔をしている先生たちも、ちょっと呆れた顔で笑ってくれている。
時折盛り上がる生徒を先生が制しているのが目に入る。これじゃライブというよりコンサート。しかもクラッシック。
ライブは終盤に差し掛かり、曲の間奏でボーカルが各クラスの作品を紹介する。音響の心配はどこへやら。演奏力でカバーできたのではなく、テンションが上がって訳が分からなくなってるだけだ。そして最後の曲が終わる。
こうして初めてのライブは幕を閉じた。
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