ビジネス・エシックスとはどのような学問か

ビジネス・エシックスとは、直訳すれば企業倫理となる。倫理と聞いて、あなたはどのような印象を受けるだろうか。ある人はアリストテレスカントといった哲学者を思い浮かべるかもしれない。あるいは、道徳という言葉を思い浮かべる人もいるだろう。そこには少し堅苦しさを感じる人もいるかもしれない。あるいは、抽象的でわかりにくいという印象を抱くかもしれない。

では、あなたはビジネスという言葉あるいは企業という言葉にどのような印象を受けるだろうか?ある人はお金を稼ぐことを思い浮かべるかもしれない。あるいは、特定の企業とその活動をイメージする人もいるだろう。企業という言葉に関しては、倫理よりも具体的かつ実践的だという印象を受けるだろう。

ビジネス・エシックスという学問は、この二つの言葉が組み合わさってできている。ビジネスの現場において、アリストテレスやカントといった哲学者の思想がどのように関係しているのか、道徳とビジネスはそもそも矛盾したものではないのか、と疑問を持つ人もいるかもしれない。中には、ビジネスにおいてはひたすら利益を生み出せばよいのだ、という考えの人もいるかもしれない。

ただし、ここで言うビジネスとは営利企業というよりも、広く事業体といった意味で用いられていると考えてよい。なので、ビジネス・エシックスの知識は単に営利を追求する企業だけでなく、非営利組織など他の事業体においても応用できるものである。あらゆる組織とそこに所属する人に適応できる、と言ってしまっても、あながち間違いではないであろう。

そして、ビジネス・エシックスという学問を鑑みたとき、それは通常のエシックスが対象とする哲学的考察よりも狭い範囲の議論になると個人的には思っている。具体的にどのようなことにビジネス・エシックスは焦点を絞っているのかと言えば、それはビジネスというコンテクストにおける「正しさ」や「善」に関する状況や活動、そして意思決定に関することだと言える。例えば、ビジネス・エシックスでは「企業は利益さえ生み出せばよい」、という考えに対して、なぜその考え方が「正しい」のか、考察をする。あるいは、企業の利益が本当に社会にとって「良い」影響をもたらしているのか、どのような場合に社会への悪影響が生じてしまうのかについて考察や実証を行う。不祥事や組織不正に関する研究もまた、ビジネス・エシックスで広く研究されている分野である。

この意味で、ビジネス・エシックスという学問は時に極めて抽象的な議論を行うことがある一方、とても実践的な現実を切り取る学問という側面も持つ。以上のことを踏まえ、ここではビジネス・エシックスを「ビジネスというコンテクストにおいて、何が正しいのか、何が良いことなのかを考え、実証する学問」と定義しておこう。

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