企業とは何か

企業というものを厳密に定義することは非常に困難ではあるが、それでも人々あるいは研究者が「企業」という言葉を用いて議論を展開する場合、ある種の仮定を設けている場合が多い。そこで、ここでも一定の仮定を置くことで、企業がどのような存在で、どのような目的を持っており、どのような責任を負うべきなのかについて理解を深める。

まず、議論を単純化するために、ここでは企業を「営利企業」、とりわけ「株式会社」として考えることにする。営利企業である、ということは、その企業が利益の追求を行うことを意味している。そして、基本的に市場における自由競争の下で活動を行う企業体であることを意味している。さらに、株式会社である、ということは、株式を発行しており、出資者が多数に及ぶ可能性があり、出資責任はあくまで有限なものであることを意味している。そのほか、株主総会の実施などの細かい規制や法(日本の場合は会社法)によって制限されている、ということを意味している。

それでは、以降は企業を株式会社と仮定して議論を進めよう。そうすると、企業の特徴として第一にあげられるのは、それが「法人」として存在している、ということである。「法人」である、ということは、社会に対して何らかの権利と責任を負っていることを意味する。例えば、企業には、経済活動の一環として行う契約締結の自由がある。それゆえ、企業が営業のためにどのような人をどのような条件で雇うかは、法律やその他による特別の制限がない限り、原則として自由であるとされている。そして、このような自由が保障されるのは、あくまで法律やその他の制限を満たす場合においてのみであり、この意味で、企業は法律や他の規制等を遵守して経営をする義務を負っていると言える。これが、企業が権利と責任を負う法人である、ということの意味である。

第二に、企業は株主によって「所有」されているが、株主とは独立した存在である、という点である。株主は企業の株式を所有することで、利益の配分やさらには重要な意思決定への参画の権利を所有している。しかし、企業それ自体の資産(工場、オフィス、設備など)は企業自体に財産権が付与されるのであり、所有者である株主に付与されるものではない。この意味で、企業が株主によって「所有されている」というのは、株主による企業の物理的な所有ではなく、利益配分や経営参画への「権利の所有」である点に注意すべきである。そして、だからこそ企業は株主によって所有されつつも独立した存在でいることができるのである。

またBerle and Means (1932) は、企業の規模が大きくなると、株主の所有する株式が広く様々な株主に分散所有され、どのような単一の株主も企業を支配するだけの十分な株式を所有していない状態になる「所有と経営の分離」を指摘した。所有と経営が分離している状況は、株式の所有者である株主が企業を支配するのではなく、むしろ株式を所有していない専門経営者が企業の支配者となり、単なる代理人以上の存在になることを示唆している。この点もまた、企業自体が株主とは独立した存在であることを示す例と言えるだろう。

最後に、企業の経営者は株主の利益を守る「信託」責任を負うという点である。二つ目の点とも関連するが、企業の経営者は株主から信託を受けて、株主の利益を最大化するよう行動する責任を負っている (Berle 1931; Sundaram and Inkpen 2004)。それゆえ、コーポレート・ガバナンスの機能を企業に備えることで、企業は株主の利益を守るような制度を導入することが求められるのである。

以上、ここでは企業の特徴として「法人」であること、株主に所有されているものの、株主からは独立した存在であること、そして経営者が株主の利益を守る「信託」責任を負っている、という三つを示した。次回の投稿では、こうした企業観を前提とし、その社会的責任について整理する。

References

Berle, A. A. (1931). Corporate powers as powers in trust. Harvard Law Review, 44(7), 1049-1074, doi:10.2307/1331341.
Berle, A. A., and Means, G. C. (1932). The modern corporation and private property. New York: Macmillan.
Sundaram, A. K., and Inkpen, A. C. (2004). The corporate objective revisited. Organization Science, 15(3), 350-363, doi:10.1287/orsc.1040.0068.

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