理論とは何か?

学生のresearch proposal にコメントする機会があった。

彼女はその中でChange Management Theory という理論を用いて研究を進める、みたいなことを書いていたのだが、そのような理論は聞いたことがなかった。実際、検索をしてもそのような理論は出てこない。

もちろん、Change を manage する、ということはトピックとして広く研究されている。例えば、組織変革を促進する要因は何か、何が変革を阻むのか、といったことである。でもこれらは理論ではなく、あくまでトピック (研究対象となる事象)である。

で、そもそも理論とは何か、ということだけれども、DiMaggio (1995) は以下の三つの重要な点を指摘している。

1. 法則をカバーするものとしての理論

理論は一種の法則を包含している必要がある。いわゆる、どの程度我々の世界の現象を一般化して説明できるか、その法則を含んでいるのが理論ということになる。

大学院生のころに受けていた講義で教授が「多くのことを説明できるのが良い理論と言われている」と言っていたことが思い出される。より一般化して事象を説明できれば、それはより良い理論ということである。

2. 目から鱗が落ちるようなものとしての理論

ときに新しい理論は今まで我々が常識だと思っていたことを覆す新しい知見をもたらしてくれる。それゆえ、論文においては新奇性という視点がとても重要視されている。DiMaggio & Powell (1983) は「なぜ組織は似てくるのか」という問いを探求するために組織の同型化メカニズムを鮮やかに描き出した。そして、彼らの論文が新制度論 (neo-institutional theory) の根幹となっている。彼らの場合、この同型化の説明こそが今まで人々が思いつかなかった目から鱗が落ちるものであり、このような新奇性のある理論は良い理論とされる傾向にある。

3. ストーリー (narrative) としての理論

そして、理論は事象を説明するものでなければならない。それゆえ、様々な実証結果等をもとに最も説得力のある形で事象を説明することができるものが理論と言える。

同様のことは、Sutton & Staw (1995) がコメンタリーの中で論じている。彼らは、理論とは「なぜ」という問いへの回答をもたらすもの、と述べている。そして逆に「理論ではないもの」として、1. references, 2. data, 3. variables or constructs, 4. diagrams, and 5. hypotheses をあげている。

1. references に関して、既存研究を列挙しただけでは理論とは言えない。既存の研究から今までにない新しい関係性を提示して初めて理論を構築したと言える。

2. data そのものも理論ではない。論文によっては分析の結果だけを示したものもある。しかし、このような論文は事実あるいは観察結果を示しただけであって、理論を構築しているわけではない。

3. variables or constructs もまた理論ではない。とりわけ、新しい構成概念を述べたからと言って、それは理論を作ったことを意味しない。自分の専門分野においてStakeholder Theory と呼ばれるものがあるが、実はこれも理論と呼ぶにはお粗末なものであり、Stakeholder Approach と呼ぶのがふさわしい(もちろん、stakeholder という概念を知らしめたFreeman は "Theory" という言葉を用いているが)。

4. diagrams も理論ではない。Sutton & Staw (1995) は、いい理論とは図だけでなく文章で論理的に説明するものである、と述べている。つまり、矢印などを駆使した図を示すだけでは不十分で、図の説明をして初めて理論を構築することができると言える。

最後に、5. hypotheses それ自体も理論ではない。hypotheses は単なるどのようなことが生じるのか、その予測であって、「なぜそのようなことが生じるのか」という説明になっていない。

Sutton & Staw の議論を受けて、Sensemaking という概念を打ち出したWeick (1995) は理論のようなもの (approximate theory) を理論と呼んでしまっていることを懸念している。Weick は Sutton & Staw (1995) の主張を受け入れつつ、指摘された五つは理論構築の手段としては役立つと付け加えている。そして、理論そのものではなく、研究者は理論を構築するプロセスに注意を払うべきであることを主張している。

最後に、DiMaggio (1995) の主張を引用させてもらえば、理論とは 1. 一般化できる法則を含み、2. 人々の従来の考えを改め、3. ストーリーとして事象を説明する、ということを可能にするものと言えるかもしれない。そして、この三つをバランスよく考慮することが理論構築においては重要である、ということを付け加えておく。


References

DiMaggio, P. J. (1995). Comments on "What Theory Is Not", Administrative Science Quarterly, 40, pp. 391-397.

Sutton, R. I. & Staw, B. M. (1995). What Theory Is Not, Administrative Science Quarterly, 40, pp. 371-384.

Weick, K. E. (1995). What Theory Is Not, Theorizing Is, Administrative Science Quarterly, 40, pp. 385-390.


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