【読書記録】マーチ&オルセン『組織におけるあいまいさと決定』有斐閣選書R

第5章:テクノロジー・オブ・フーリッシュネス

この章では「愚かさのテクノロジー(technology of foolishness)」に焦点を当てている。

おもしろい人や組織は、自らについての一筋縄ではゆかない理論を構築する。そのために、理性(reason)のテクノロジーを愚かしさ(foolishness)のそれで補完する必要がある。また、道理に合わないことをする必要がある。いつでもということではないが、日頃ということでもない。時々で結構だ。個人や組織は、考える前に行動する必要がある。

p.120

ここで言う「愚かさ(foolishness)」とは、一見非合理的であるが、実は新しい視点や可能性を開くための思考を指す。この理論の核心は、おもしろい(=革新的な)人や組織が持つ、従来の枠組みにとらわれず、既存のパラダイムを逸脱して新たな視角を提示する力にある。

組織の発展過程においては、ある程度の慣性―すなわち、合理的かつ一貫性のある意思決定や行動パターンが固定化する状態―が必要である。スタティックな環境であれば、慣性に従うことはそれはそれで賢いのかもしれない。しかし、個人や組織が過去の成功体験や価値観に固執することで「慣性のロック」(伊丹、1987)が生じる。この慣性のロックが生まれると、変化する環境への適応を妨げ、創造性を損なう。

新しい目標の発見に至る機会として知的選択の行為を利用しようとすると、見事な愚かしさ(sensible foolish)といった考え方が必要のようである。現在愚かと思われているもののなかで、どれが魅力的な価値をもたらすであろうか。

p.121

理性的あるいは合理的であることが評価される土壌では、組織の過去の価値観やパラダイムからの逸脱が許容されず、組織にイノベーションをもたらしうる新しいアイディアが淘汰されてしまう。組織に「おもしろさ」を取り戻すためには、「行為を正当化するためのものとして目標を取り扱うように、おもしろい目標を創造するためのものとして行為を取り扱ってみたらどうだろうか」(p.120)と提言している。

賢くなって行く組織に対して、愚かしさを付与することを通じて意味づけを豊かなものに変えていくことが、組織を創造的に保つのに必要である。

なお、本書において"technology of foolishness"という言葉は、「愚かさのテクノロジー」と直訳されているが、この言葉は単に技術や方法論に関連するものではなく、意思決定のプロセスにおいて従来の合理性や価値観、常識に挑戦するアプローチを指している。

あまりピンと来ないので、Chat GPTに代わりになる訳語のアイディアを出してもらった。
・非合理の戦略
・愚者の知恵
・創造的非合理
・異端のロジック

個人的には「愚かさの知恵」がいいのかなと思ったり。

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