【読書雑記】岩井秀一郎『渡辺錠太郎伝:二・二六事件で暗殺された「学者将軍」の非戦思想』(小学館、2020年)

 ここ半年ほど、日本経済新聞の土曜日・詩歌文芸欄の連載・梯久美子さんの「この父ありて」から目が離せません(本連載は、2022年に『この父ありて:娘たちの歳月』という書籍として文芸春秋社から出版されています)。現在は、4人目をかぞえ、詩人の石垣りんさんが取り上げられています。これまで、カトリック修道女・作家の渡辺和子さん、歌人の齋藤史さん、作家の島尾ミホさんとそれぞれ5回ずつ、彼女たちの作品や人生にそれぞれの父親が彼女たちとどのような関係性をもち、彼女たちの作品や人生に影響を及ぼしたかを、興味深いエピソードとともに綴られていきます。
 この連載を毎週切り抜いて持ち歩くまで関心を向けるきっかけになったのは、やはり冒頭の渡辺和子さんとその父・渡辺錠太郎陸軍大将との衝撃的なエピソードによるものでしょう。渡辺和子さんといえば、平成のベストセラー『置かれた場所で咲きなさい』の著者。もちろん、その父親が二・二六事件で散った陸軍大将であることは彼女の著書によって語られているところです。しかし、この連載を読み進めていくにつれ、渡辺和子さん以上に、その父・渡辺錠太郎という人物に魅せられ、興味が湧いてくるではありませんか。ちょうど、昨年、岩井秀一郎氏の手により評伝『渡辺錠太郎伝:二・二六事件で暗殺された「学者将軍」の非戦思想』が小学館より刊行されていたので、さっそく手に取り、行き帰りの電車で読み進めていきました。あまり表舞台に出ることはありませんが、こうした経歴、そして思考をもった軍人がかつていたことに驚き、そして、そういう人に限ってあのような非業の死を遂げる。その理不尽たるや……。
 それにしても、この本の表紙の親娘写真の表情がなんともいい!軍服と少女の写真といえば、『白洲正子自伝』の表紙の写真(白洲正子とその祖父・樺山資紀)も有名だが見比べてみると、なんとも写真に映る二人の関係性が如実に表れていてこれまた興味深い(2021年5月記)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?