【独占禁止法叙説】6-2 過度経済力の集中の防止(パート1)

 独占禁止法(以下、「法」という。)は、その冒頭において同法が禁止する私的独占、不当な取引制限及び不公正な取引方法を列挙すると共に、その直後において「事業支配力の過度の集中」の防止を併せ規定している(法1条)。法第四章の規定−殊に過度経済力集中会社の設立・転化を禁ずる法9条及び銀行・保険会社の議決権保有を制限する法11条−は、これを受けて設けられたものである。ここにいう「事業支配力」とは、他の事業者の事業活動を支配する力であり、そうした支配しうる地位によって行使され得る力である。「支配」とは、一般に「……原則としてなんらかの意味において他の事業者に制約を加え、その事業活動の自由なる決定を奪うこと」をいい、講学上、事業者の有するこうした力を「経済力」(economic power)と呼ぶこともある。「経済力(=事業支配力)」とは、「市場(支配)力」(market power)と一応区別され、商品・役務市場における競争とは直接結びつかない、つまり、価格メカニズムによるコントロールを直接受けることなく、社会的に存在する「私的な力」(private power)をいう。わが国国民は、過去の経験からこうした「私的な力」に対する危惧や懸念を共有するとともに、これらに何らかの制約を及ぼすことを構想した。法の禁止・制限類型の中に「事業支配力の過度の集中の防止」をその一つとして指摘し、かつ、法の究極的目的において「国民経済の“民主的”で健全な発達」を掲げているのは、そのことを示すものであり、かかる目的を実現するために、法9条ないし11条の規制を置くこととした。
 「経済力」には、本来的に「他の事業者の事業活動を支配する力」を含み、その手段に特に限定があるわけではないが、多くの場合、かかる力の形成は合併や株式保有等の「かたい結合」によってもたらされる。つまり、「経済力(=事業支配力)」の「集中」とは、こうした「かたい結合」による力の結集とその拡大である。法第四章の規定は、かかる「集中」の手段それ自体を禁じているのではなく、「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合」(法10条及び法13条から法16条までの各規定)や、法の定める一定の要件に合致したり、一定の規制基準を超えたりするような場合(法9条及び法11条)に、これらの手段は禁止・制限されることとなる。
 したがって、「事業支配力の過度の集中」とは、少数の大企業や企業集団に富が偏在・集中するという問題−しばしば「一般集中度」という数値によって表される−なのではなく(わが国では、かつて一般集中の指標として「一般集中度」が公正取引委員会により定期的に公表されていた。これは、総資産、資本金、売上高、付加価値、従業員等を規準に上位100社を選び、それらが法人企業全体の中でどれくらいの割合を占めているかを測定したものである。もとより「一般集中度」の程度が「事業支配力の過度の集中」を示す直接的な指標となるものではないことは既に述べたとおりである)、合併や株式保有等を通じた企業支配の拡大を対象とするものである。そして、法9条ないし11条の規制は、事業支配力の集中が「過度」に及ぶことを危惧し、かかる状態の発生を未然に「防止」することを目論むものである。その意味で「事業支配力の過度の集中の防止」は、かかる状態に連なるおそれの大きい行為を未然に阻止することとの関係で設けられているものであり、「事業支配力の過度の集中」はそれ自体禁止の対象ではない。むしろ、かかる状況の現実化が、「国民経済の民主性」にとって危機的状況であると考えられ、そうしたことが問題とならないための制度として、法四章の規定が置かれているといってよい(正田彬「独占禁止法9条の改正について」ジュリスト1123号4-5頁)。
 しかしながら、先般の「持株会社」解禁を内容とする法改正(平成9年法律87号)は、制定以来、法目的に掲げられ予防の対象とされてきた「事業支配力の過度の集中」に、法9条の構成要件としての位置を与えてしまい、結果、その意義を根本的に変えることとなってしまった。
 以下では、これまで述べてきた過度経済力集中規制の趣旨ないし前提を踏まえ、法9条の内容を「事業支配力の過度の集中することとなる会社の考え方」(平成14年11月12日公正取引委員会)(以下、「ガイドライン」という。)に即して概観し、実定法上の問題点を若干指摘しておくことにしたい。

(2024年4月15日記)


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