【読書雑記】荒川洋治著『昭和の読書』(幻戯書房、2011年)

 先日の朝日新聞夕刊の文芸欄で取り上げられたのが本書購入のきっかけ。この本が起こしたちょっとした「物議」に興味を惹かれ読んでみたのだが、版元の幻戯書房がHPでコメントしているように、そんな過激な内容ではなかったように思う。ただ、文学をめぐるこれらの文章には、現代の文学シーンに「もの申す」姿勢があちらこちらに見られることは確かだ。特にページ数にして本書の6割を占める書き下ろし、「昭和の読書」、「昭和の本」、「名作集の往還」、「詞華集の風景」においてそれは顕著である。先の記事は、これらの「書き下ろし」に注目したのだろう。
 それにしても、荒川洋治という人は余程本が好きなのだろう。気に入った本なら、同じ本でも数冊所有し(わたしもしばしばしてしまう......)、かつてしばしば刊行された日本文学全集の類において、個別の作家に充てられた巻にどの作品が収載されたのか(文学全集の編者が個々の作家のどの作品を代表作と考えていたのか)を比較検討している。もはや、エッセイを通り越して、文学全集からみた出版史であり、文学史の様相を呈している。この徹底さ、彼のやり方なのだろう。
 他の本をめぐるエッセイの多くは新聞の連載の再録。流行作品ではなく、かつてよく読まれたものが復刊されたのを機に取り上げているようだ。これは一つの手である。紹介されて読みたくなっても、なかなか手に入らないというのでは興ざめである。本書はよき文学(作品)案内であり、荒川洋治はよき文学の案内人である。そして、幻戯書房の最近の仕事、気になる出版社である(2012年1月27日記)。

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