【読書雑記】猪木武徳『経済思想』(岩波書店、1987年)#ブックカバーチャレンジ_02 

 昨日から始まったブックカバーチャレンジ。二日目に取り上げるのは、猪木武徳氏の『経済思想』(岩波書店、1987年)です。この本は、わたしが大学に入る前後に(昭和と平成の境目あたり......)始まった岩波モダン・エコノミクスシリーズの一冊として刊行されたものです。
 このシリーズ、『ミクロ経済学』を奥野正寛・鈴村興太郞両氏が、『労働経済学』を島田晴雄氏が、といったように、当時の一線級の執筆陣が名を連ねていました。しかも、この二冊は大学の教科書としても使われており、これらを買ってお隣の経済学部(わたしは法学部でした!)の授業によく「もぐって」いたことを思い出します。
 このほかにも、青木昌彦・伊丹敬之両氏の『企業の経済学』や石川経夫氏の『所得と富』、岩井克人氏の『不均衡動学の理論』などは、当時の最先端テーマに切り込んだ内容のものが次々刊行され、熱心に読んでいました。
 で、『経済思想』!人類がそのときどきの経済問題にどのようにむきあってきたかを書き連ねていくのが経済思想だとすれば、このタイトルでありがちなのは時代を代表する人物の経済学説を編年体で語っていくというもの、つまり経済思想”史”です。
 だが、この本はこれらとは一線を画しています。市場の秩序から語り始め、政府の役割、貨幣と信用、消費・生産・商業というふうに「主題でしばる」。幅広い引用からは、浩瀚な古典の素養が垣間見られます。しかし、これらの素材や情報を羅列するものではありません。自由や公正、そして正義といった価値が、市場や経済とどのように関連し結びついているかを粘り強く思考する一冊となっています。
 わたしが、新しいテーマに取り組まなければならない時、かならずこの本を手元に呼んで、対話することからはじめます。
写真は、鮮やかだった表紙がすっかり色あせてしまった『経済思想』(ちなみにこのシリーズ、まだ完結していないと思う)(2020年4月28日記)。

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