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腐れ縁

「多分彼のことは死ぬまでずっと好きだと思う」
まだ10代の頃、わたしはそう友人に話したことがあった。そして30代を目前にした今も、やっぱりわたしは彼のことがずっと好きなままだ。


誰にだってきっと、「忘れられない恋」「今でも憧れの先輩」「思い出の初恋」みたいなものがひとつやふたつ、あるものだろうと思っている。

今日は、この↓noteに登場した腐れ縁の彼のことをなんとなく思い出していたので彼について書こうと思う。

今回のnoteでは彼のことは「彼」と呼ぼうと思う。(既に先日の記事で「A」というイニシャルを使ってしまったため順番的には「B」と呼ぶべきなのだろうが、これまでもこれからもわたしの中での彼の存在はきっといちばん大きいので、こいつをBにするのはなんとなくわたしのプライドが許さないな、という理由から。は?と思われそうだし、自分でもちょっとは?と思っているが、それだけふたりの付き合いも長いのだということで目をつぶってほしい、笑)



彼との出会いは中学1年生の夏だった。学校は違うが同じ塾に通っており、学力別のクラス編成があり一緒になった。

彼は授業中、いつもわたしにちょっかいをかけてきた(ちょっかい、なんて言葉を使うのはまさに小学生~中学生くらいだろう、久しぶりすぎる言葉に戸惑って、もしかしてこれは関西の方言?なんて不安になってググってしまった笑)。後ろの席から肩をトントンと叩かれて振り向くと無視される、着ているパーカーのフード部分に消しカスを入れられる…いかにも13歳らしいいたずらである。

うっとうしい奴。わたしも昔から気の強い女なので、何かいたずらされてもやり返したりするうち、あっという間に仲良くなった。中学1年生の「仲良し」なんて、ちょっとどんなものか覚えてないけれど。ただ明らかに同じクラスの中でわたしと彼は異性間で仲が良く、みんなから「仲良いね」と言われていた。こんな存在の異性ができるのは初めてで、なんだか特別な気持ちだった。彼に会えるから塾に通うのも好きだった。それから3年間、塾で週に2回顔を合わせたり、市が合同で行う部活の練習試合で見かけたり。思春期なので、そのたびに喋ったり、はたまた喋らなかったりもした。目が合ってもぷいっとしたり、かと思えば触れそうな距離でふたりだけで話したり。

幼少期に絵画教室に通っていたことがあるという彼は絵が上手かった。テキストの裏表紙に先生の似顔絵を書いてくれたこともあった。授業中、たまにイラスト付きの手紙を回してくることもあった。真面目なクラスで手紙を回していることは周囲にもばればれだったし、なんとなく恥ずかしい気持ちもうっとうしい気持ちもあったが、それでも彼からの手紙はしょっちゅう回ってきた。

中1だったか中2だったか忘れたが、年末に彼とメールをしていたらこんな提案をしてきた。
「元旦の早朝、○○神社まで一緒に走って初日の出を見よう。日の出ツアーしよう」
面白い提案にわたしは乗った。朝5時に集合と言われて張り切って起きたが、彼が寝坊して中止になった。仕方ないので1月2日の早朝に実行しようとしたら、その日はわたしが寝坊して中止になった。結局日の出ツアーは開催されずに終わった。

中学生の恋愛なので付き合うも別れるも気まぐれのようなものだが、お互いにずっとお互いのことを意識していた。それぞれ学校で好きな人がいない間はお互いに夢中になる、といった感じ。3年生の夏、何がきっかけかは忘れたが、急に付き合うことになった。ガラケー全盛期、メールで告白された。たった15年程度しか生きていないけれど、人生最大の夢が叶ったような気がした。


修学旅行でお互いにお土産を買ってきたり、お揃いのミサンガを手にも足にもつけたり、塾の帰りにママチャリで2ケツしたり、カラオケデートしたり、いかにも田舎の中学生らしいお付き合いを重ねた。
中学生の身からすれば、数年間(ずっと一途に、ではないにしろ)思いを寄せ続けていた相手と付き合えるなんて運命では!人生の大恋愛だ!なんて盛り上がっていたが、3か月もしないうちに「好きな人ができたから」とあっさり振られた。

それからの塾は地獄だった。わたしとしては運命だ!なんてはしゃいでいたところを一方的に振られ、そんな相手と週に2回も顔を合わせなければならない。これまで仲良しだねと言われていたふたりが喋らなくなり、休み時間には避けるようにトイレに行ったり、本当は元気なのに居心地の悪さから彼が体調が悪いと嘘をついて早退することもあった。そういう子どもっぽくて、不真面目なところがずっと嫌いだった。


春になり、別々の高校への進学が決まった。振られてから卒塾まで喋ることもなかったし、特別な存在だったなと思い出すことはあれど、高校生活を謳歌しておりほとんど彼のことなんて忘れていた。高校生活3年間のうち数回メールが来たことがあったが、他愛のない話をして終わった。


浪人をしたわたしの耳に、あの子は○○大学に行ったらしいよ、と地元の友達から噂が入った。ふうん、と思ってその時は聞き流したが、心のどこかで意識していたのかもしれない。元々志望していた大学の一つだったけれど、結局わたしはひとつ下の学年で同じ大学に進むことになった。

彼が何学部なのかも知らないし、そもそもマンモス大学なので学校でばったり会うはずもなく、入学早々は会えたらいいなあなんて期待もしたが、またしてもわたしは時間と共に彼の存在を忘れて大学生活を楽しんでいた。


1回生の後期試験の時期、確かあれは1月末くらいだったと思う、一般教養の試験が終わって帰宅しようと校舎を出ると、知っている顔が向こうから歩いてきた。それはまるでスローモーションのように。ああこういう時、人間は言葉を思い浮かべるよりも先に目だとか脳みそが反応するんだな、とあとになって分かった。ぞわっと鳥肌がたって、瞳孔が開くような感覚になって、立ち止まった。


「○○くん、分かる?」
その時のわたしが一体どんな表情をしていたのか分からない。長年会いたかったような、会いたくなかったような、いや、本当はずっと気になって会いたかった人がついに目の前に現れた。それもかなり運命的なタイミングで。なんて、またこうしてすぐに運命だとかなんとか言いたがるおめでたい癖。そういえば中学生のときからずっとおしゃれだったな、なんて思い出しながら。

「おお!飯田ちゃん!えっ、なんで!」
彼はすぐにわたしだと気付いてくれた。その日からわたしと彼の関係性は中学生の頃のそれに戻り、ある程度大人になったぶん、そしてふたりとも一人暮らしだったので、それは次第に都合のよい関係になった。地元から同じ大学に進んだ気の知れた友人がお互いだけだったこともあり、これまでの話をしたり、同じ塾だった友人たちの噂話をしたり、就活の話を教えてもらったり、ご飯を作ったり、これまでの会っていない時間を埋めるように過ごした。彼にはその時彼女がいたけれど、彼女がいながらこんなことが出来るプレイボーイ的なところも彼の大嫌いなところだけど、せっかく久しぶりに会ったんだからと言ってわたしとの時間を優先するのは、やっぱりどこか嬉しかった。


学校生活はもちろんバイトやサークル、就活などでそれなりにお互い忙しくしていたため、春休みが終わると次第に会う時間も減っていった。わたしもそののちに別の彼氏ができたし、やましいこともしなくなり、また昔のように、徐々に連絡を取らなくなった。


彼はずっと憧れていた職業で地方に就職が決まった。わたしたちの地元からは縁も所縁もない遠い土地。おめでとう、また遊びに行くね、なんて連絡して、実際に会ったのは2年後だったか3年後だった。わたしは東京で仕事をしていたが、タイミングが合わず、また会えばやましいことが発生すると分かっていたので、彼氏がいる間は会うことはなかった。
それでもやっぱり、1年に1回程度は彼から「今どこにいる?遊ぼう」だとか、「地元に帰ってきてる。いる?」なんて連絡が来たりした。いつも唐突で勝手だったけど、呼ばれたらちょっと無理してでも行ってしまう自分がいた。



彼氏だとかの「思いを馳せる相手」がいない期間、急に彼のことを思い出して寂しくなることが何度もあった。こんなにずっと好きで会いたくなるんだから、いっそ彼と結婚できたらどんなにいいか、何度もそう思った。これから急にわたしのことを「やっぱり俺も昔からずっと好きだったんだよ」だとか「やっぱり飯田ちゃんが楽でいちばんだ」なんて言って、一緒に地元に帰ってこれたりしないかな。だって会った時にはいつも「地元でこんなに仲良く続いてるのは飯田ちゃんだけだし、これからもきっとずっとそう」だなんて言うんだもの。「もう人生の半分以上一緒にいるね、出会った時はまだ13歳ってやばくない?もう○○年目の仲ってすごいよね」なんて笑うんだもの。「帰ってきて急に誘えるのは飯田ちゃんだけ」だなんて、特別扱いするんだもの。

そうやって思う反面、子どもっぽく拗ねたり怒ったり、ものすごくわがままに他人を振り回したりするところは昔からずっと変わらないし、大嫌いだ。年の離れた弟がいるぶんしばらく一人っ子のように可愛がられて甘やかされて育ったんだろう。こんな人とずっと一緒にいたら疲れるに決まってる。幸せになれない。わたしは別に世話焼きなタイプでもないし、絶対だめだ。

じゃあ、もういっそわたしは結婚なんてせずに、ずっとひっそりと彼のことを思い続けて、死ぬまでずっと都合のいい関係でいればいいんじゃなかろうか。彼のことを考えだすとこんな思考のループが止まらなかった。ずっと大好きで大嫌い。幸せになれないと分かっているけれど、いつも会いたいし特別な存在だと感じる。呼ばれたらホイホイとついて行ってしまう。もしお互いにいつか結婚してしまったら、もう会えなくなるのかな。彼はプレイボーイだから、きっと結婚なんてしないんじゃないだろうか。わがままで自由な人だから、家庭に縛られてもきっとすぐだめになりそう。



なんやかんやとお互い本格的なアラサーになり、わたしは結婚することになった。そしてその半年後くらいに彼からもついに「実家帰ってきてるけど会えない?実は結婚することになりました。子どもも生まれる!」と連絡がきた。ああついにこの時が来てしまったか。意外と早かったな…でもそりゃそうだ、わたしがこんなに大好きな彼なんだから、他の女の子たちも放っておくわけがない。デキ婚だし彼のことだし、きっと離婚するんだろうなあ、なんて思いながらも、でも心の底からおめでとう、と思えた。ちょっとざわざわする気持ちはあれど、これだけ人生をかけて大好きな彼なんだから、幸せになってもらおうではないか。


そして秋になり、冬になり、わたしたち夫婦にいざこざが生まれ始めたころ。彼とわたしは先述のnoteのとおり、数年ぶりに再会したのだった。またいつもの関係に戻ってしまったね、不倫って探偵を使ったら一発でばれるらしいよ、なんて言いながら。彼の子どもの名前にわたしと同じ漢字が使われていること(この日わたしが指摘するまで気付かなかったらしい、無意識レベルでわたしのこと好きやね、って言ってやった)、中学生のころ一緒に行ったカラオケで何度も歌った私の大好きなアーティストを彼の奥さんも好きなこと、彼のこれからの夢、今のお互いの仕事の話、結婚観、子どもが生まれるということ、彼もまたセックスレスであること。
やっぱり嫌い、あーそういうところがやっぱり好き、いろんな感情を揺さぶられながらわたしは頷く。



わたしはこれからも一生彼に翻弄されてしまうのだろう。うん、むしろ望むところだよ、わたしはずっとずっと彼に振り回されていたい。いつまでもわたしの好きな人。お互いに都合よく、会いたい時に会えばいい。勿論誰かを不幸にしたり悲しませるのはよくないと分かっているから、誰にも分からないように。愛の言葉はなくていいから、ただ一緒にぼんやりと昔を思い返して、今の話をして、次に会うまでにまたお互いパワーアップしよう、なんて心の糧にできればそれでいい。いつまで会ってくれるかな。きっといつまでも会ってくれるんだろうな。結局わたしも彼も忙しい人だから、これから先も1年に数えるほども会えないんだろうし、でもそれで一生続いていきたいな。ひとつお願いできるとしたら、悲しくなっちゃうからわたしより先に死なないでほしい、それくらいかな。




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