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iittala展

ガラスという素材に興味を持っているのは、カメラに携わっている人間として当然なことだと思う。
「photograph」の語源は光を描くと言うことであり、わたしたちは常にいい光を探し求めている。
ガラスの質感は光を集め、光を反射する特性があるから、カメラを持つとその光の移ろいを撮り納めたくなるのだ。

iittala展に行った。
元々私は北欧の暮らしに対して憧れがある。降雪量の多い北欧では、家で過ごす時間を大切にしている。だからこそ気持ちを明るく保てるように、優れたデザインのプロダクトが生み出されてきた。
ガラス工場から始まったイッタラは、洗練されたガラス技術によって合理的かつ生活に寄り添うガラスの器を数々生み出してきた。そのガラスの透明色に魅了され、もっと知りたいと思い、展示を見ることにした。

イッタラは元々ガラス工場で、数人のプロダクトデザイナーが関わって製品を生み出している。だからこそ、ガラスと一言で言えど、スタッキングできるようなシンプルなものもあれば、アアルトベースと呼ばれる有機的な形をした花瓶のように斬新なものもある。
なかでもオイバ・トイッカというデザイナーが印象的だった。彼はイッタラの製品の中では比較的装飾的なデザインを生み出している。彼の代表作でもある等間隔に水滴のようなガラスの粒が並んだカステヘルミは一度は目にしたことがあるだろう。また、バードバイトイッカシリーズというガラスで作られた様々な鳥のオブジェがユニークだった。クリアな素材や、津軽びいどろのような色とりどりの斑点模様の組み合わせが、色とりどりの羽根に似ていて、重厚感のあるデザインだと感じた。

デザインの元となっているものが自然由来のものが多く、北欧の景色を思い浮かべるのも楽しかった。氷のモチーフのものでも、柱状の縦線がびっしりとあるようなものは分厚い霜のように感じ、北欧の気温の低さに身震いした。
気泡が多くある瓶は、荒々しい海からデザインが起こされ、激しい波で大きい水滴がドポンと水面に落ちる映像を頭の中で再生した。
住んでいる環境に影響されていたり、フィンランドがキリスト教が布教する以前の神話をもとに制作されていたりと、デザイナーの母国愛を感じるプロダクトが多いのが良かった。
デザイナーのインスピレーションのありかを知ることによって、自分の制作を思い返すことができ、制作意欲に繋がるのがありがたいと思う。

イッタラは、積極的に国内外のデザイナーとコラボレーションをしており、日本とも関わりが深い。そのなかでミナペルホネンの皆川さんのインタビューがイッタラへの敬意を感じる言葉選びに、聞き入ってしまった。
ミナペルホネンとイッタラのコラボレーションしたプロダクトは、鳥がモチーフに使われているのだが、それは恐らく、バードバイトイッカへのリスペクトなのかもしれない。

ブンカムラミュージアムの一つ上の回のカフェで、イッタラ展とのコラボメニューがあった。
そこで使われている器がミナペルホネンとイッタラのお皿で、展示されたものが暮らしに組み込まれていることに喜びを感じた。
チラチラと聞こえてくる鑑賞者の話を耳にしても、「これは食洗機対応しているから良いのよ」や、「あなたの家にこの花瓶あるよね」など、ここで展示しているものが鑑賞者の生活に溶け込んでいることが美術鑑賞をしているとすごく新鮮だった。
実際私も一人暮らしを始める時に、母にシンプルな白のボウルと皿をもらった。それらも展示台に並んでいた。
コンセプトを形に成し遂げているということがアートではなくデザインであることを更に明確に感じた。

展覧会を見て、カフェでランチして、本当ならこの経験を誰かと共有して、感想を言い合いたかったのだけれど、生憎1人でいたので仕方なく書き記した。
展覧会を深く理解し、心に留めておくためには、自分の言葉で頭に入れ直すことが必要だなと感じる。
もっと展示の感想を気の置けない人と共有して、意見交換をしたい。

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