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散文

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#短編

一連

一連

取り留めも無く希望を探す心持ちで、トングをかちかちと鳴らす。ブルーベリーの青を溶け込ませたベーグルが、昔飼っていた犬に似ていた。名前はミゲルだった。外国の犬種だと聞いて、当時の知識を総動員して、おしゃれな響きの名前をつけたような覚えがある。進めば、床のタイルが禿げてざらざらになったところが、クロックスのかかとに引っかかる。ベーグルが揺れて、咄嗟に庇う。ミゲルはフリスビーが苦手だったから、結局俺が近

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あぶら

あぶら

 振り返ってみれば、小原はいつもぎこちなかった。ぎこちないというのは、主に立ち振る舞いについてだが、広義なら小原の生活そのものを指していた。大きく出っぱった額には、常に汗をじったりと滲ませて、それを隠すように長い髪を伸ばしていた。
 電車を間違えた、と連絡が来る。僕は改札の前で待つのをやめて、駅に併設する小さな本屋に入った。新刊のコーナー、文芸書、建築雑誌を眺める。本屋への興味が尽きかける瞬間に、

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