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Weekend log vol.5/水曜日のカンパネラ-ネオン

水曜日のカンパネラの新EP「ネオン」が5月25日にリリースされた。

水曜日のカンパネラ-ネオン

主演・歌唱担当のコムアイ、音楽担当のケンモチヒデフミ、その他担当のDir.Fの3人で構成される音楽ユニットとして活動していた「水曜日のカンパネラ」だが、2021年にコムアイが脱退を発表、新メンバーとして詩羽(うたは)が加入し、主演・歌唱を担当するという大きな転換がなされた。カンパネラのキービジュアル、いわば看板娘とも言えるボーカルの交代に、ファンの中では大きな波紋となった。

水曜日のカンパネラは、2015年リリース「ジパング」あたりから本格的に追い始め、2017年リリース「SUPERMAN」などはとてもよく聴いていた記憶がある。

キワキワの世界観を「カワイイでしょ?文句ある?」と半ば洗脳のようにレップする「きゃりーぱみゅぱみゅ的」な力強いポップさと、キャッチーなアイコンを前に出すことで、マニアックな音楽なのにマスの首を振らせることのできる「BABYMETAL的」な痛快さがあった。「パンクポップ」という表現でしっくりくるほどに、水カンの尖り方は異質だった。そしてそれがとてもかっこよかった。さて、本作はどうか。

もともと、強烈な世界観を持つカンパネラの楽曲に対して、コムアイの柔らかく透明度の高い声は、両者が反発しながら混ざり合っているような、独特の空気感があった。その不安定さを癖になる人は沼り、不協和音と感じる人は離れていきで、はっきりとファンを分けるプロダクションだったと感じる。

しかし、詩羽による新生水カンはそれらのニュアンスの部分を廃し、突き抜けたポップスに踏み切ったように感じた。

「意味わからんけど、なんかかっこいい」水カンの世界観と音楽性はそのままに万人を巻き込むキャッチーさが新たに加わっている。「イロモノの続編は駄作」のジンクスを裏切る見事な世代交代。再興を予感させる、期待を大きく超えた完成度だった。とても良かったです。

プロデューサーがあくまで裏方的な立ちふるまいのまま、表現者として暴れることができるこの音楽編成は、山下達郎とユーミン、秋元康と彼によって売り出される多くのアイドル達、最近では月の美兎のアルバム「月の兎はヴァーチュアルの夢を見る」など、考えてみると多く存在する。しかし、この編成の面白さを意識させたのは、私にとっては水カンが初めてだった。

水カンのブランディングは、例に挙げたアーティストの中でも、フロントマンの世界観に沿った楽曲を作曲家が提供するのではなく、作曲家が自分の表現したい世界観に合う人材をあてがうスタイルで曲作りを行なっているという印象を受ける。

このスタイルは、言ってしまえばライフワークをライスワークにできるわけで、作曲家にとっては夢のような戦い方であると思う。それにこの構図は、顔や声などを公開しないクリエイターが、投稿した自身の作品で数千数万のバズを生んでいるSNSの構図ともよく似ていて、その点でも現代的だ。

作り手が安心して自由に泳ぎ回ることのできる新しいフロントマン「詩羽」を迎えた新生水曜日のカンパネラ。結果として、一枚目からかなりワクワクさせてくれた。今後どうなっていくのかますます楽しみである。


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