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『こっちへお入り』平安寿子

落語の世界は、現実ではない。でも、現実とは地続きだ。戸はいつだって、開きっぱなし。興味がなければ通り過ぎるだけの道筋で、あるとき、ひょいとのぞきこんだら、待ってましたと声がかかる。 

『こっちへお入り』p.287


岩田書店さんの一万円選書の中の1冊。
自分では選ばないような、それでいてどこかで自分が求めていたような、そんな本たちとの出会いをくれる。

つまらない日常を重ねる平凡なOLの日常が落語と出会うことで劇的に変わっていく話。

少し前、大学院に通う主婦の方に対して「大学院は主婦のカルチャーセンターではない」という書き込みがされ、炎上したことがあったが、そもそもカルチャーセンターだって馬鹿にできない。

主人公の江利は友人に誘われて落語教室に飛び込み、落語の世界にのめり込んでいく。
素人が集まる女だらけのいわゆる「カルチャーセンター」で学んでいくわけだが、落語の技術はもちろんのこと、落語から自分の人生における問いへの解も得ていく。
そして、この解ははっきりと明示されるものではなく江利が落語の中から自ら学び取っていくものだ。

このような学びの場を、素人の稽古場所、ただの娯楽と馬鹿にできたものではない。
どこに人生の転機が転がっているか、どんな出会いがあるかなんて誰にも予想できない。
やってみたいことがあったらまず飛び込んでみるのがよいということを改めて教えてくれる。

登場人物はみな割とミーハーで、「おんなおんなした」女性の描写に辟易するところもあるが、落語とのかかわりの中での成長や芯の人間性が感じられるので後半はあまり気にならなくなった。

年齢や環境のせいにして何かを諦めることのなんともったいないことか。
この記事を書き終えたら自分の地域のカルチャーセンターについて調べてみよう。

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