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山手の家

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#オリジナル連載小説

山手の家【第21話】

山手の家【第21話】

生まれ育った北国ではあまり経験することのない蒸し暑さが堪えたのかもしれない。
瑠璃は山手の家の内覧から帰宅すると、すぐにシャワーで汗を流して、真珠の世話を真に任せて昼寝をした。
とにかく、体がだるくて仕方なかった。
気がつくと時計は夜の7時を過ぎていて、明かりのついたリビングで真と真珠が寝そべってテレビの録画を観ていた。
軽い夕食を取り終えて、瑠璃は仕事の原稿書きにも使うタブレットで調べ物をしてい

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山手の家【第20話】

山手の家【第20話】

真の声が上がったリビングは扉が全開になっていて、南向きの窓から明るい日差しが廊下にも漏れ出していた。
リビングに入ろうとしていた瑠璃を「瑠璃さん、そこ、気をつけて」と、真の声が止めた。
「そこ、段差があるんだ」
見ると、リビングの床が廊下よりも1段下がっていた。
「こんな段差、昔はなかったぞ」
確かに、真の言う通りだ。
信子たちが住んでいたころは、毛足が長く、地の厚そうな白い絨毯をリビングだけでな

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山手の家【第19話】

山手の家【第19話】

足音を立てて、真が廊下の向こうからやってきた。
「瑠璃さん、どうした?」
「真さん、これ、よく見て」
瑠璃は玄関扉を指差した。
「これのどこがおかしいの?」
「この扉、内側からロックできないし、チェーンとかドアガードもないから、家の中に誰かいる間は外から扉が開け放題」
ドアノブのそばに扉を開けられないように内側からロックをするためのツマミがあるはずなのに、それはなく、代わりに鍵穴があった。
今住ん

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