芸人当夜 0 ーprologueー
ある日、俺はあっちゃんとYoutubeの動画を撮ることになった。
「慎吾、今、俺Youtubeやってるじゃん?」
「やってるねー」
「それがさ、登録者20万超えたから、記念に俺のやってる授業にさ、生徒役として出てくんない?」
動画を撮る前にあっちゃんにそう言われて、当日、楽しそうだなあというようなふらっとした気持ちで現場に行った。現場はちょっとした小劇場っぽい雰囲気の建物で、観覧ができる状態の部屋だった。あっちゃんいいトコ使ってんなぁーとか思いながら気楽にスタンバッてると、直前になってあっちゃんが
「俺と90分みっちり喋ろう。」
と言ってきた。あっちゃんらしいなぁと思いながらも俺は快くOKした。あっちゃんがすぐ方向性を変えるのはいつものことだし、変えた方がお互いにとって絶対いいことが多い。それは今までの18年でわかってきたこと。だから俺はあっちゃんの意見を聞く。それにがっつり喋ること自体もトークライブ以外では少なくなってきてたから、ちょっと楽しみだった。
あっちゃんのサロンのメンバーの人たちが見ている中で、俺は若干緊張しながらもカメラの前に立ってあっちゃんと動画を撮り始めた。話し始めるとやっぱり楽しい。だってあっちゃんは「相方」でもあるけど、第一に「親友」だから。あっちゃんは慎吾、慎吾といつも俺の事を気遣ってくれるし、尊敬もしてくれる。実際この間Youtubeにアップされた、俺のことを褒めてくれた動画もめちゃくちゃ嬉しかった。正直ニヤケが止まらなかった。
あと、あっちゃんが活躍すると俺も嬉しい。あっちゃんの動画は、ブランチ(王様のブランチ、TBS系)メンバーである渡部さんも「めっちゃ良いよね!あっちゃん向いてるよ!」って言ってた。渡部さんは2年一緒にレギュラーをやっている俺のことはちっとも褒めてくれないのに、あっちゃんを褒めるとはよっぽどなんだと思う。Youtubeの中で再生回数が伸びてるのをずっと見てたから、さすがあっちゃんだなぁって感じだった。そんな関係だから、突然喋ることになっても全然喋れる。
動画が進んでいく内にふと気になった。あっちゃんは俺に何を話してほしいんだろう、いや、俺と何を話したいんだろう。すると、あっちゃんは、
「今までコンビトークとか色々やってきたじゃないですか。で、ラジオとかでも一緒に喋ってますけど、今日は中田MCで、藤森さんゲストですから。藤森さん主役ですから。」
「え?そうなの?」
「藤森慎吾とは何なんだっていうね、ヒストリーから、考え方から。意外と照れくさくて喋んないこと多いでしょ?」
「あぁー確かにあんまり自分の話しないねぇ」
「自分の考え話さないでしょ?」
「しないねー」
あっちゃんは1ミリもそういうのは隠さないけど、俺は恥ずかしくて隠しちゃう。そういう面でも、あっちゃんはすごい。
「藤森慎吾、チャラ男としての本音をね、聞いてみたいね。」
それを皮切りに俺はあっちゃんと色んな話をした。出会いからこれまでの話、そしてこれからの話、あと...あ、俺の彼女の話も。(いやこれは別に掘り下げなくていいんだよ)
ありがたいことに俺はバラエティだけじゃなくて、俳優の方もやらせて貰ってるし、あっちゃんはバラエティをセーブしながらもアパレルやYoutubeでウマいこといってる。コンビの仕事はすこし減ったかもしれないけど、何となくお互いのことは分かってる。でもそれはコンビ間での話。俺の考え方や仕事に対する姿勢、人生観を、色んな人にしっかり伝えたことはなかった気がした。
俺は最初は「テレビに出たい」「芸能人に会いたい」という単純な理由で、あっちゃんとコンビを組んでNSCに入った。最初は、お笑いで飯を食うことに反発していたあっちゃんを説得することから入ったけれど、なんとか説き伏せて、そこから武勇伝でブレイクした。でも、正直ブレイクしたのは全てあっちゃんのおかげだと思っていたし、ただネタをこなすだけの俺にあっちゃんと対等に渡り合える自信なんてなかった。
俺は、相方に対しての妬みや嫌悪感と、「相方の足を引っ張っているんじゃないか」という苦しみから実は何年も逃れられなかった。
でも俺はそこから抜け出し、ありがたいことに「チャラ男」なんてキャラを確立できた。それが今の仕事にも繋がっている。忙しくて辛い時もあるけれど、今は本当に仕事が楽しい。これも結局は、一時期あれだけ嫌っていたあっちゃんのおかげなんだと思う。あっちゃんはホントすごいんだよ。
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「彼は言った その世界の中心が
自分自身 そう Top of the world」
「PERFECT HUMAN」の冒頭の一節である。
この曲でオリエンタルラジオ率いるRADIO FISHは日本レコード大賞・企画賞受賞や紅白出場を果たしている。
この絶頂の遥か10数年前、同じような状況が慎吾の目の前で起こっていた。慎吾の入ったバイト先、24時間の事故処理のカスタマーセンターで「とんでもないカリスマ」がいたのだ。その「カリスマ」はバイト仲間たちが作る輪の中心に君臨し、爆笑をかっさらっていた。この時から慎吾の頭の中にはこの歌詞の根本となる「何か」が少なからずもあったのではないのだろうか——
今から綴られるのは、テレビに出て活躍するスーパースターを長野で夢見た少年が、唯一無二の親友と時にぶつかりながらも二人三脚で、本当にスターになっていく、
そんなお話。
続きが気になった方はこちら。
「1-01 壁」
https://note.com/i_am_berobero/n/nfcf199d0f2cd
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