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繊月の詩。

繊月の詩。

青い傷があって

傾げれば光る

プリズムの明滅

僕のからだは透けて

化石になっていく

岩肌を撫でれば息をする

植物だった名残だよ

灰が積もって

知らないで居られるから

こんなにも穏やかで

まるい形をしている

読まれなかった言葉たちが

点在して夜を作る

月になりたかった

星芒の詩。

星芒の詩。

光につける名前を持たない

よく燃える命をしている

分断の向こう側へ還る時

抱擁は揺籃と同じ響きをもつ

躰の中にも泡沫は昇る

吐き出すよりも先に溢れている

瞬きは星を亡くすから

輪郭に委ねて眠る

肩甲骨は翼の名残で

曾て僕らは鳥だった

渡り鳥の唄。

渡り鳥の唄。

体に点在する黒子は

宇宙のどこかの星と重なる地図だ。

そこにある故郷のことを

忘れてしまう。

月の砂を飲んだとき

喉に極光が張りつく。

そうすると背骨が

オパアルになって

夜が来る度にうっすらと輝く。

眼窩に真珠を嵌め込んで

月光の糸を手繰り歩いた。

えいえん、えいえん、

と、海が言う。

水平線の向こうへと

鳥が飛んでゆく。

プリズムの詩。

プリズムの詩。

透明な血が流れる傷を縫いとめる

針は時間を刻んで、ちくたくと進む

糸は目に見えない明かり

か細く、頼りないものが繋ぐ

あたたかな手でふれるには

灯火がひとついるから

ここに書き起こして 火をおこす

凍ったものが溶けるまで

かざす 陽は ゆびさきを赤くする

かたちのない なまえのない

からだのない ことばのない

それ は ここにあって

きれいだった ただ澄んでいた

眩しいく

もっとみる
ある庭の詩。

ある庭の詩。

雨が降り続く街で石灰の城は溶けて、ただの水になる

詞は理の外にあって、矩形の庭を視ている

今だけを春と呼ぶなら人生はずっと春のままで

過ぎて往って散る 星の名前を授かる花があること

きみの爪の先から生えた翼のこと

先の広がった歯ブラシの行方とか、知らないままのこと

僕の國に炎がないこと、君を眼差すひとのこと、

海が燃やして、燃やして、燃やして、灰にしたものが

砂と呼ばれた記憶たちで

もっとみる
影絵の詩。

影絵の詩。

名前を知ることで触れる世界

それは満たし、それは枯れさせてゆく

声の海に立つ波の言葉を掬う

忘れていても花は咲いているし

星はずっと遠くで燃え続ける

夕陽が、ぜんぶを連れ去って影にする

この手にもらった水を飲む

百年後の白雨が今日も降る街で

過ぎる季節を眺めていた

幻は破れて、羽化してしまう

十時の詩。

十時の詩。

陽に透ける指先の

輪郭は赤い

血が通っているからだで

心へと手を伸ばしてみる

言葉にならないでいい

その淵に触れる時

眼差すだけで変わる

一人きりでも

温められるように

手渡された祈りを懐く

星だけの夜に

月は真珠になって

海の底にみえる

傷痕の詩。

傷痕の詩。

花はただ咲んで佇む

広い草原(くさはら)

しろいろのライオン

欠けた面がひかる

割れたままがいい

湖のあわいに待つ

雪解けの日

ここに風が吹く

影がある

抱き締めていた

光の中で

白露の詩。

白露の詩。

ハイスピード

フィクションだった、四季

みぞおちまで、

波が寄せる

ただ一つの祈り (ひかり)

目を閉じるとラメが煌めく

やわらかなかたち、している

痛くない触れ方で

ここに

なんにでもなれた、から

遠吠えをする

手を待つ花の並ぶ店先

どこへだって

飛んでしまえる軽さで

風になって

ひかる。ひかる。

紙片の詩。

紙片の詩。

薄く透ける光の降る夜

影だけを残して姿を消した月

ぼくの血と同じ色をした

星が沈澱していた

骨貝になったきみの

手を離してみてもいい?

(いいよ)

大きな魚の肋骨を揺籃に

羽化するぼくにはもう何もいらない

あの時のあの瞬間だから美しかった

日々はこの世界への遺言

霧散する魂は光を綯う

残照の詩。

残照の詩。

切り貼りした景色に手をつけて

塗る水の色は極彩

筆先で描く瞳が見つめる

夕陽に沈んだ春が凪いだ

ここで手を広げて待っている

笑う、声がした

過去になっていくすべてを

ちゃんと忘れる

旅の果てでまた、それまでの

ことを知らない

僕らの祈りも空へと還す日へ

波間の詩。

波間の詩。

点、異なる時間の流れが隔てる

溺れる夢を見た

部屋に灯る電球は滲む月

境界が消えている

触れてみれば心

銀鱗にとってはどうだって良い

植物はそう伸びていく

反射する形でしか知れない、鏡

洗われていく成分

表れていく成分

空白に花を飾る

墨の詩。

墨の詩。

呑んでいる、から、大きくなる、

肺、色を奪っていく光、

褪せた夕暮れ時のこと、

ほんの一度瞬いた、

そうしたら消えていた、

水色の残照を触ろうとして、

海が透明だったことを思い出す、

掬えばなくなる冬の息、

一面の銀色は睫毛のその先、

冷たいのは、

その星がもう尽きているから。

蝋の詩。

蝋の詩。

膨張する体に宇宙が内包されている。

爆ぜることも出来ない。

座礁した月に横たわる。

砂は光る宝石たち。

碎けた夜の底に明ける、

陽に灼かれて、溶ける、翼。

逝たい(いたい)、春は生温く浚う。

抱いた骨の隙間を風が塞ぐから、語る。

膿んだ口内炎から真珠を吐いた。

金色の角が地面を割って大樹となって、

それは墓標と誰かが言った。