good byeほくろ
左目の下の鼻寄りに大きなほくろがある。
産まれたばかりの写真には写っていないが、保育園のお遊戯会の写真にはほくろが認識出来るので、30数年共に歩んできたほくろだといえる。
そして私はこのほくろがとても嫌いだ。
クラスメイトと似顔絵を描きあう授業で、目が三個あるんじゃないかと間違うくらい真っ黒に塗りつぶされたあれが“ほくろ”と気付いたあの日から、ずっとずっと嫌いだ。
前髪は左を長めにして流すのが定着した。
写真ではピースを顔に近づけて指で隠す術を習得した。
メガネはほくろに被る大きいフレームを選んだ。
昨今ではマスクを上めに装着しほくろが隠れる位置を覚えた。
ハワイの移動説が流行った時分には、ほくろも移動できるんじゃ…?などと支離滅裂なことまで考えた。
せめて!せめてもう少し目尻に寄ってもらえたら色気のある女になれたのに……!
ハワイの移動説が当てはまることはないしそもそも色気は当人の力量によるだろう。
そこにあり、そこに居続け、なんかちょっと大きくなったり濃くなったりしながら、私の日常に勝手に寄り添っているほくろ。
すごく嫌い。
ほくろ除去は考えていた。
しかしなにかこう踏ん切りがつかない。
「ほくろを取ってください!」
などと駆け込むのも気が引ける。
手湿疹や肌荒れの受診の際、ついでに相談しようと思ってはいても、とりいそぎ症状の説明だけで口が閉じる。
また言えなかった。
それが20年近く続いた。
今日(2024/07/18)
右目頭辺りにでっかいニキビができてしまった。
鏡で見ると、縁は赤く中心は白い。
これは皮膚科で処置してもらわねば悪化する。
そして目線は自然にほくろにいく。
「今日こそ……今日こそ……」
病院に行けたのは診察時間も終わりに近いときだった。昼に来ると賑わっているのに、週も後半だからなのか閑散としている。
待合室のテレビは夕方のニュースが流れ、一日の締めくくりを伝えていた。
問診を渡された。
『ニキビを見てほしい。
手湿疹の薬の追加希望。
ほくろ除去の相談』
希望欄に書いた。
書けた………!!!!心臓がドキドキしている。頭の中はニキビのことよりほくろのことでいっぱいだ。
そのまま診察室に呼ばれ、諸症状を伝えたあとはほくろの写真を撮られ大きさを計測し、待合の人数を確認している風のあと医者と看護師がゴニョゴニョ話をしているのを感じた。
医者が私の目を見ながら(ほくろを見ながらだったかもしれない)言う。
「時間大丈夫なら今から取る?」
目の前で漁師が「乗っていきな姉ちゃん!」と船を差し出してくれた有りもしない記憶が浮かんだ。乗りかかった船、あぁこのことか。
私はその漁師の手を力強くバシッと握る気持ちで
「しますぅぅ〜」
なんとも情けない力無い声が出た。
〜続く〜
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